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宝塚宙組「カルトワイン」DC [観劇感想(宝塚)]

宝塚宙組「カルトワイン」
2022年7月4日(月)16時 梅田ドラマシティ 20列上手 結果的に千秋楽

すごい良い!名作だ。全盛期の正塚先生風だけど、さらに華やかさと明るさがある。
テーマがきちんとしていて重い。境遇はかなり深刻で暗いのだが、主人公をはじめとする登場人物がしっかりしていて前向きで生命力があるから、明るい。救いがある。
見ていて考えさせられるし、心に響くし、泣けるし、明るい気分で劇場を出られる。絶賛だ。

さらに、主要人物みんな歌も芝居も上手い。特に主人公のシエロ、親友フリオ、物語を動かすチャボと男役1~3の全員が上手くて、ノンストレスに浸れる。
衣装もちゃんと宝塚っぽく華やかで良かった。大当たりです!

202207宙カルトワイン.jpg

ミュージカル・プレイ
『カルト・ワイン』
作・演出/栗田 優香  


テーマを一言でいうなら「価値」かな。自分の価値、モノの価値。価値とは自分できめるもの。他人の評価に左右されない。とはいえ、価値は周囲の評価にかなり左右される。まあ絶対価値っていうのは、なかなか無いと思うけどね。だからこそ自分でしっかりと「価値」があるか無いか、何が価値なのか、を見分けて生きていく。というのがテーマだと感じた。
いま社会とか企業経営で「価値」が重要だと言われているから、すごく新鮮でそして永遠のテーマだ。

オークションに出される高級ワインを通じて、「価値」とは?を語っていく手法。本物のワインと偽のワイン。それに踊る人々。狂乱のバブル。真贋を知っている贋作づくりは、それが面白くて仕方ないよね。そこに関わる人々の人としての「価値」も狂乱する。
ちゃんとした価値観を持つ人々は揺るがない。正の価値を持つフリオ、アマンダ。負の価値を持つチャボ、ミラ。この人たちは周囲の価値の変動に巻き込まれず、自分の価値観で生きている。自分の中の価値の基準が定まらず、他人の価値を利用する人々が、狂乱する。真ん中にいるシエロが、それらを浮き彫りに居ていく。それが明瞭で見ていて本当にわくわくドキドキする。追い詰められた行動のはずのシエロが、狂乱を巻き起こして人の本性を暴いていく魔術師みたいに見えた。そうなの、追い詰められて巻き込まれているはずの主人公シエロなのに、巻き込まれている感が薄い。巻き込まれた渦を利用して、渦を自在に操るように見えてしまうところが絶妙。悲壮感や絶望感がない。巻き込まれているのに、自分の意志で楽しんでいるところが、すごい。脚本や演出が良いのもあるし、何より役者(桜木さん)が上手いのだなあ。すごい主人公像だ。
こういう作品、すごく好き。何度も見てみたい。きっと最初から細かい仕掛けがしてあるはず・・(と、配信を楽しみにしていたら、中止のlineが来た。残念すぎる。)
恋愛要素は薄いけど、そんなのより大事な「他人を思う心」「絆」みたいなものを感じられる、暖かい作品だ。シエロとフリオの関係がメインだけど、シエロとチャドとも実は微妙な良い関係で、この2つの全然違う絆がとても面白かった。


シエロ・アスール 桜木 みなと
主人公。貧しい国(ホンジュラス)の貧しい生まれと育ち。両親は無さそう。ただ生まれる前から知り合いの一家(マラエディエガ一家)と家族のように生きている。貧しい暮らしの中で、這い上がるためにマラス(ギャング)になって腕に入れ墨を入れる。マラスを憎む親友一家は、それでも彼を家族として扱ってくれている。いい人に恵まれてる。だから最悪の状態まで行かなかった。絶望の中でも、明るく前向きの一家と一緒にいたから、シエロは救われている。父替わりの親父さんは、命がけでシエロを守ってくれた。その時、本当に息子と思われ愛されていたと知って、シエロの中の揺るぎない「価値」が決まったように思えた。
アメリカで、親父さんとほぼ同じ性格の親友フリオと二人でわちゃわちゃしながら、運をつかんでいき、やがて狂乱の渦に巻き込まれ、渦を大きくしていく。それは自分の才能をフル活用し高い評価を得ることだから、楽しかったでしょうな。だって才能使って評価されたら楽しいやん、嬉しいやん。ということで、心配するフリオを振り切って最後まで行こうとする。フリオに言われるまえに、自分でもチャドに「危ない」って言ってるんだけど、フリオにはそんなのは微塵も感じさせない。すごい男だなシエロ。この辺りの場面、シエロにきゅんとするわ。絶望的な状況に巻き込まれても、動じずに(動じているように見せず)自分の意志で選んだかのように楽しく打開しようとする姿勢は見習いたい。
最後の最後まで、最悪の状況を最悪と思わずに飄々と生き抜こうとする信念と、揺るぎない価値を持つシエロの姿は、本当に清々しい。なんと明るく救いのあるラスト。
桜木さんの芝居も歌も、見事でした。これは代表作になる。
どうでもいいけど、シエロ・アスールって、cielo asuri かな、スペイン語で、「聖なる青」って意味だと思う。すごい名前だね。最初見たとき、これは綽名なのかと思った。


<家族>
フリオ・マラディエガ 瑠風 輝
シエロの親友、いや兄弟。それも仲のいい同い年の兄弟か。性格は全然違う。普通ならこんなに仲良くないし付き合いも無いくらい、違う。でも一緒に育って感覚が家族だから、お互いにお互いのために、それぞれの価値に基づいてお互いを救おうと行動する。そういうところは似ている二人。フリオはまじめで、それでいて大胆。追い詰められてアメリカ行きを提案するのもフリオ、でも絶対に悪事はやらないという信念があり、そこは何があっても揺らがない。目的のためには、手段は択ばないシエロとは違う。だから、この家族に毛色の違うシエロがいなかったら、一家3人きっと最初にギャングに殺されて終わっているような気がするくらい、まっすぐだ。シエロがいなければ、確実に親父さんは祖国で殺されてるし、妹は手術できなくて病死してる。フリオ自身もあの性格では長生きできなかった。
それが、シエロを切っ掛けにアメリカに出て、まじめに働いて料理人として成功するとは!頑固な真面目が成功する環境でよかった。
有名レストランで下から頑張って認められ、お嬢さんと結婚まで行くとは、アメリカンドリームではないか。そんなフリオの人生の要所には、シエロがいて助けてくれた。シエロの助けが無かったら、今のフリオの幸せは無い、それをフリオ自身がよく分かっている。
だからフリオもシエロを助けようと動く。イイ感じですね。ほんと男の友情もの。いや仲の良い男兄弟モノだ。
フィナーレを見るに、アマンダと肩を組んで仲良さそうにしているので、無事結婚できたんでしょう。ああよかった。でもシエロに何かあったら、家族残して(アマンダの父はしっかりしてるし安心)助けに行くのは確実であるが。
瑠風さん、朴訥で真面目そうな雰囲気がとても上手い。シエロと対照的な性格が見た目から態度話し方全部に漂っていて、分かりやすかった。歌も上手いしねえ。


ディエゴ・マラディエガ 松風 輝
親父さん。この人は命懸けで息子たちを愛した。フリオもシエロもモニカも我が子。言葉でなく行動で示した。彼に貰ったロザリオは、最後に大事なアイテムとして登場するが、シエロはずっと大事に持ってたんですよね。彼の揺るがない価値の象徴だったと思う。
人間として父親として、素晴らしい人物でした。
松風さん、上手いわ~

モニカ・マラディエガ 美星 帆那
身体の弱い妹。ただ守られているだけではなく、家族を殺そうとしたシエロを赦し愛せる優しい子。モニカにとっても、シエロはフリオと同じお兄ちゃんだっただろうなあ。本と3兄妹。でもそんな大事な位置づけなのに、後半全く出てこなかったモニカ。手術は成功しただろうに、大事な兄の一人であるシエロのことを心配しないはずがない(本当の事情は絶対にフリオが隠したと思うが)。フリオも全く妹に触れないし。脚本、モニカのこと忘れた?って思うくらい。それが残念だった。
初めて名前を知った娘役さんですが、可愛いですね。お芝居も良かった。

<堅気じゃない人>
チャポ・エルナンデス 留依 蒔世 元ギャングで、シエロと同じように本国を逃げ出してアメリカで成功した実業家。裏の仕事で成功した感じですが。もちろん出会ったばかりのシエロにもフリオにもその事情は分かるくらい明白。でもなんか憎めない。チャボもシエロを気に入っているのがわかる。組織のボスとして部下に対する非情さは持っているけど、シエロの才能を見抜いて、それを利用しているけど、それでも「若いころの自分」を見るように、シエロへの一抹の愛情を感じたのだ。敵役じゃない。この作品に「敵」はいないけどね。出てくる人物それぞれの正義や価値を描いただけ。
チャボもチャボの価値のもとにまっすぐに生きている。組織を預かってるし、部下のこともそれなりに可愛がってる。適材適所で使って育てている。まっとうな生まれならいい経営者になれた人物では。
シエロは裁判でも最後まで、チャボの名前を出さなかった。それはシエロなりの思惑があってのことだし、それはチャボもわかっている。だけど自分を裏切らなかったシエロのに対して(チャボもお互いの思惑がわかってるけど)評価を上げたのでは、と思った。多分、彼が出所したらそれなりの礼があるか?なんて。結構、真義を重んじそうだから。
迫力のある反社のボス。重みと貫禄を出しつつ、軽妙で懐の大きさも感じさせる。人間味もある。芝居全体も上手いのだけど、特に声の芝居が上手い。歌もいい。ほんとにいい声。
この重厚なマフィアのボス声を出している髭の似合う人物が、ついこの前の大劇場で迫力の女闘士だったとは!すごいですね瑠衣さん。

ミラ・ブランシェット 五峰 亜季
オークション会社の専務。女性初の役員で、さらに上を狙う野心家の女性。20世紀初頭というから、女性は家にいるものという価値観の時代ですね。その中で、男社会の中を出世するとは、素晴らしい意志と行動力の持ち主だ。使えるものは何でも使ってきたのでしょうね。多少グレーでも平気、覚悟が違いますって。シエロなんて若造は手の平の上で転がしてやれ!って感じ。最後に、ぬけぬけというセリフまでが素晴らしい。この人も価値を確立して生きている人だ。絶対に動揺しないのも見事。
妖艶な敏腕ビジネスマンの美女役が、五峰さんにピッタリ。過去の五峰さんの中で一番似合っていたのでは?って思うほどです。

<堅気の人>
アマンダ・フェンテス 春乃 さくら
高級レストランのお嬢さん。ソムリエ。お嬢さんだけど高飛車なところがなく、正義感に溢れ、自立したいと頑張っている素敵な女性だ。だからフリオが惹かれる。最初から惹かれてる。シエロはあまりアマンダより、ソムリエのほうに惹かれている。彼が夢中になったのは、自分の才能と言ってい良いかも。彼の才能を認め引き出して育ててくれたのはアマンダだから、そこは感謝してると思うけど。フリオがアマンダが好きなのがバレバレな時点で、シエロとアマンダがカップリングする選択肢は、シエロの中にはない。そんな台詞は無いが、断言できる(見えたよ)。いい子なんだけどね~アマンダはシエロが好きなのも見てわかるし。「シエロはいい男だけど、アンタの手には負えない。フリオにしときな」っておばちゃん言ってあげたかったよ(いや、そういう選択してるから、アマンダ正解)。
ということで、アマンダは良いお嬢さんだったけど、ヒロインではなかった。本作のヒロイン(?)はフリオだから。
春乃さん、声が綺麗ね。台詞がはっきり聞こえる良い声。可愛らしいしヒロイン向きだ。

カルロス・フェンテス 寿 つかさ
アマンダの父で、高級レストランの経営者。やばいことは金で解決する賢い紳士なのだが、金で片付かなかったのを助けてくれたシエロ(&フリオ)を雇ってあげる良い人。そこはフリオの真面目で誠実な性格(見た目や態度に出てる)がモノを言ったのだと思うけど。
シエロのほうはなあ・・二人セットだから、悩んだと思うけど、一瞬で判断してさすが優秀な経営者だ。可愛い一人娘も心配なく、経営者としてもまともだし、お店は繁盛しているし、登場人物の中で一番羨ましい立場だ。
寿さんの白ストライプスーツはお似合いすぎる。今回はマフィアじゃないけど。

屋台の店長 澄風 なぎ
シエロとフリオに幸運の缶詰を転がしてくれて、彼らに突破口となるアルバイトをさせてくれた人のいいおじちゃん。なんか人の好さそうな感じがすべてに出ていて、楽しくなる人だ。この人の屋台から買って食べたい!って思った。

ザック・フォード 澄風 なぎ
騙されて大金をはたいて偽ワインを買って悦に入っていた大富豪。この人が息子に言われて覚醒して、バブルが弾ける。悦に入っていた状態から、目が覚めるあたりのお芝居が見事でした。人間はそうやって我に返るのねって過程が明瞭だった。お芝居上手い人ですね。

ザック・フォードJr. 鳳城 のあん
その親父の目を覚まさせた息子。息子は父と同じ価値観の持ち主ではなかったようだ。狂乱に飲み込まれない人間でしたな。理路整然と父を説得し、シエロのバブルを止めた。
若い人ですね?お芝居がちょっと堅い感じがしたけれど、生真面目な息子っぽくてよかった。

ミゲル・ペレス 真白 悠希
チャボの部下の一人で、シエロに付いている感じ?車の運転手やったり出番が多かった。なんか上手かったわあ。印象に残った。

<ストーリー進行役>
オークショニア 風色 日向
1幕と2幕の冒頭で、説明をしてくれる人。オークション会社の人という立場だけど、空間を超えて出てくる感じがする。ちゃんとあの木槌は持ってますね。
抑揚をつけて大げさに、盛り上げて(オークションらしく)説明してくれるのだけど、ちょっと台詞が聞き取りにくいところもあり、強弱って大事だなって思った。見た目は軽妙で、かっこよかった。

キャスター 花菱 りず&湖々 さくら
同じく、ニュースという形で、シエロのことなんかを捲し立ててくれる方々。興奮口調で幕下れられると、ちょっと聞き取りにくい。私が年寄りだからなんだけど、キャスター役なので、もう少し単語をはっきり話してほしいなあって思った。


<フィナーレ>
フィナーレが付いてました~カッコいいのが。桜木さんはずっとシエロだったけど、周りの皆さんはちゃんと宝塚に戻ってました。ダンスとかカッコよかった(と思うけど、細かく覚えてない。記憶力がお芝居に占拠されていたから。)
最後のカーテンコールで、毎日誰かにコメントを振っているらしく、私が見た回は、瑠衣さんだった。いやチャボさんだったというべき。「今日はチャボに!」と振られ、瑠衣さんは「チャボ・エルナンデスです」とドスの利いたエエ声でコメントしていた。うおおチャボだ、チャボがにこやかにコメントしてる!とその演技力と美声に感動した。
「千秋楽まで頑張ります」って最高の笑顔の桜木さんが締めた。(この方、笑うと目が無くなるのが可愛い)


こんな感じ。これは凄いや!と興奮して帰宅し、書くぞ!って思ったところに劇団からメールが来た。明日から千秋楽まで休演・・。わからなかったところは千秋楽の配信があるやって思った私。ああ残念すぎる。私が見たのが事実上の千秋楽だったのか。ああもっとしっかり目に焼き付けておけば置けばよかった。後悔先に立たず。でも見れて良かった。
私の目に録画装置を付けておきたかった。素晴らしい舞台だったのよ~


ワインについて。
タイムリーなことに、「岡さんのしったかワイン塾」という本をいただいたので、ちょっと勉強しつつ、観劇を・・と思ったけど間に合わず、配信までに・・と思っていたところ、配信が無くなった。フリオよりも格段に味がわからないのですが、とりあえずワインの勉強をしながら、記憶を辿るしかない。味わい深い舞台だったから、上に書いた中に記憶違いもあると思う。だからこそワイン片手に、ゆっくり映像見たかったなあ・・。


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