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宝塚花組「二人だけの戦場」梅田劇術劇場 [観劇感想(宝塚)]

宝塚花組「二人だけの戦場」梅田劇術劇場
2023年4月5日(木祝)11時30分 梅田芸術劇場1階8列下手

再演を聞いた時から楽しみにしていた。およそ30年ぶりか。大好きだった作品。一路さんトップ時代、花總さんのあの長きにわたるトップ時代の幕開けとなるプレお披露目作品でしたね。今でも覚えているくらい印象に残る正塚先生の傑作のひとつ。

今日見たら曲も演出も変わったところは、なかったような(ただ30年前の記憶なので印象だけ)。衣装がちょっと変わったような気がする程度。懐かしかった。見ていると、懐かしい雪組生が浮かんでくるので間違いなく、記憶にはあった。
何度見ても名作ですね。柚香さんもしっかりと悩める青年将校を演じていて、永久輝さんはきっぱりした性格の親友を。星風さんはちょっとライラのイメージと違ったけど、アルヴァ兄さんは記憶通りで兄妹に見えたので良かった。
なぜこのタイミングで再演?とは思うし、このメンバーがぴったり!とも思わないけど、でも見れて嬉しかったです。



202304花二人だけ.jpg


再演だけど、ネタバレあります。



ミュージカル・ロマン
『二人だけの戦場』
作・演出/正塚 晴彦

正塚先生黄金期と思える時代の始まり化という作品。複雑に絡み合う政治状況と、複数に渡って錯綜する人間模様。正義と決断。そしてその中で育まれる愛と揺るがぬ友情。一組じゃないのよ、複数パターンで見せてくれるの。素晴らしい。すごく印象に残る名作ですわ。
見てすぐにユーゴスラビアのセルビアとコソボがモデルよね、と気づくけど。今の時代の人はピンとくる?今はロシアとウクライナの真っただ中だもんね。

ティエリー・シンクレア 柚香 光
士官学校卒の新任少尉。理想に燃えて民族融和のためにわざわざ問題の基地を志望。それが基地司令官と同じ考えだったため、司令官付将校となり、いろいろと巻き込まれていくことに。物語的にはライラよりもハウザー大佐のほうが、シンクレア巻き込み率(運命を変えた率)が高いと思う。
正義感が強くて、理想のためには突っ走っていく。若いし。冒頭のノヴァロとアルヴァの諍いとか、あんなに大事にするほどのこと?(と弁護している人もいたが)。
だけど小さなことから正していかないといけないっていうのも筋だし、実際ノヴァロたちは処分されているので、正しいことなんだろう。だけどやり方はもっと考えてほしい、と年寄りは思う。若いからまっすぐすぎる。正しいけど、そのやり方ではトラブルを起こすよ?って思う。後から結末を聞いて悔いてたので、年を重ねればよい将校になったと思う。
この後はルコスタでライラと静かに暮らしたのかな。情熱は使い果たしたから、もう引退生活を送る気もする。
柚香さん、声が出るようになった歌が良くなったと思う。もともと一路さん宛だから、結構大変な曲も多いけど、何とかモノにしていたと思う。軍服姿はかっこいいし、巻き込まれタイプの芝居も良いので、良かったですわ。

ライラ 星風 まどか
ロマ出身のルコスタ州議会議長の娘。誇り高く、稼業である祭りで踊る一座(兄妹二人でも一座なんだ)の華。州の要人の娘なら、あまり各地を踊り歩くのもどうかと思うが、親の言うことは聞かなそう。かなりしっかりした性格で主張も激しいが、その割に困ったら「どうしたらいいの?!」を連発する幼さが見える。どうしたらいいの!って言われても、そりゃ「自分で考える」しかないだろうなあって思うのだが、錯乱してこの台詞を連発するということは、いままで「自分の正義」で選択肢を選べない局面にであったことが無かったのかなと。やはり幼い。初演の花總さんは当時研3(確か)、これがトップお披露目で、その不安と硬さとがイイ感じにライラの幼さと不安につながっていた。まあ初演は宛書だからね。星風さんはあまり幼く見えなくて、いろいろ父や兄の思想、置かれた状況のことを知っていて、自分も思想がある大人に見えるの。だから不安と幼さというより、自分の正義に合わない時に起こすヒステリーに見える。八つ当たりやね。もし改編可能なら、彼女も「独立のために戦う戦士」にした方が似合った思う。→変えるとしたら、(アルヴァは改心してテロを止めてたけど)アルヴァはテロを続け、ライラが止めるの。
「ああ」「うん」の台詞が売り物の正塚芝居ですが、ライラの「うん」は強すぎる。もっと自然な「うん」がいいなあ。「ん」でいい箇所もあると思う。基本の衣装は変わってないけど、髪形が違った。前髪がちょっとうっとおしいと思ってしまった。もう少しまとめた方が綺麗よ。


<クロイツェル基地>
クリフォード・テリジェン 永久輝 せあ
シンクレアの同期で、仕方なくクロイツェル基地へ配属された新任将校。生真面目で理想のために尽力しようとするシンクレアと、明るく軽く楽しく生きようとするクリフォードの対比も見所。思想や性格は正反対でも、二人の友情はとても篤い。それは冒頭からの裁判場面でずっと感じられる。クリフォードは普通のごく一般的な将校なんだろうなと思う。
法定場面の凛々しさは素晴らしい。彼は立派に出世したのだろうと思う。出世しないと、弁護力弱まるからか。法定で訴えるクリフォードはとてもかっこよかった。
シンクレアとクリフォードが二人で歌う場面が多い。柚香さんと永久輝さんの声はあまりうまくはもらないのかな。斉唱って感じ。一路さんと轟さんの声が違いすぎて、「これが二重唱というものなのね!」と驚いたあのインパクトはなかった。永久輝さんはアカペラやら変な音階のソロとかいっぱいで、大変そうでしたが、とても聞かせてくれたと思います。軍服も似合います。私は紺のほうが好み。

ハウザー大佐 凛城 きら
クロイツェル基地司令官。この人がルコスタの独立を支援した。かなり変わった思想なのに、その彼を個々の司令官に任命するとは、軍内部でも意見が割れてるのだろうな。だから副官にクェイドなんだ。上官としては大変良い人物で、ついていきたくなる。だけど部下としては独断専行が多いので、任せるのは心配ってなる。いや基地司令だからある程度の裁量権はあるけど、今回はそれを超えてるものね。裁判時は引退しているそうだけど、そりゃそうだろう。ただ間違いなくルコスタ共和国の恩人のひとりだ。
凛城さんお芝居が安定していて上手い。安心してみてられるわ。初演の古代さんより豪快なイメージであってる。

クェイド少佐 航琉 ひびき
基地副官。中央の幕僚には普通にいる思想タイプの将校でしょう。彼も国のために働く立派な軍人。シンクレアやハウザー大佐が珍しいのだ。使命を全うしようとして、彼なりに上官の暴走を止めた結果、えらい目に合ってしまいました。一番不幸なのはこの方だと思う。

ラシュモア軍曹 羽立 光来
基地の軍曹で、独立時には脱走兵として、恋人の元へ。もとからかなり違反してお店のマスターやってますよね。歌上手いな~このカップル。

ノヴァロ 綺城 ひか理
シンクレアとの因縁のある軍人。シンクレアの告発のため、「ちょっとした諍い」の責任を取って降格・左遷されて、さらには連れ歩くような大事な部下も亡くした。そりゃあ憎いでしょう。ただ、彼もその後シンクレアと再会しなければ、そのまま忘れたかもしれない。でも再会した。そしてシンクレアの「異常な思想」が筋金入りなのを知った。クェイド少佐やノヴァロからすれば、ハウザーとシンクレアのほうが異常思想で内通者なのだから、彼らの行動は当然で、その後の告発も当然だと思う。ノヴァロだって勲章をもらうような立派な軍人なのだ、中央からすれば。ノヴァロは家柄とお金のために士官学校には行けなかったけど、軍曹に出世してたし、頭が良くて度胸もあるんだと思う。名門出身の現場を知らない士官に苦労させられたのかも。最初の場面、新米士官を舐め切ってたし。彼の人生も見てみたい。さすが綺城さんだ。
ところで、ノヴァロみていたら矢吹翔さんを思い出したから、記憶の深層に触れて蘇ったようだ。重要な役だけど、お芝居の上手い綺城さんなら、もっと大きな役で見たい気もする。花組は上級生が多いのか、星組時代より役付きが下がったようで残念すぎる。

<ルコスタ州>
シュトロゼック 高翔 みず希
ルコスタ州議会の議長。この州のトップですよね。穏健派でおおらかでちょっと気が短くて。愛すべきオジサマ。だれもが慕ってしまう人間的魅力に溢れた方。ああ汝鳥さん・・・! 高翔さんも「良い人オーラ」の出る方なので、こういう役はお似合い。まだ恰幅が足りない気もするけど、それは私の刷り込みによるものか。
シュトロゼックとハウザーの会話のテンポ、掛け合い。素晴らしい。この二人も友情に篤い男たち。シンクレアとクリフォードは同じ側で思想が違う親友、シュトロゼックとハウザーは違う立場で思想が同じ親友。この対比も素晴らしい。

アルヴァ 希波 らいと
その長男でライラの兄。もとは過激派の独立運動家。今は穏健な独立運動家。妹と一緒に各地の祭りに踊りに行っていますが、どう見てもスパイ活動では?(誤解されても仕方ないくらい)。
長身でダンス上手くてかっこいい。お兄さんは長身でないと! そして若いけど、ちゃんとしっかり者のライラの、手のかかるお兄さんに見えたのですごくよかったです。イメージ通り。声はちょっと高めだね。

エルサ 朝葉 ことの
酒場の女将。若い!(また早乙女幸さんが浮かんだからだと思う)。ライラのお姉さん的な立場で、若い二人を諭してくれるいい人。ラシュモア軍曹のこともしっかり働かせてるし、しっかりしたやり手の女性ですね。優しくておおらかな軍曹と、お似合いの二人。
ライラとシンクレアの若いハラハラする恋人たちの対比、かな。落ち着いて暖かいエルサとラシュモアの大人カップルです。

<その他>
検事 峰果 とわ
裁判場面で、下手の証言台に立ち、下手証言台のクリフォードと対決する方。大変出番が多いが、動きがない(笑)。この検事の主張こそ、クェイド少佐やノヴァロたち「普通の軍人」の思考でできていると思う。そう思えば、ほとんどが検事と同じ思考の軍事法廷で、クリフォードはよく頑張った。

作家 高峰 潤
シンクレアの物語を出版しようとして取材している作家さん(安蘭さんが浮かんだぞ)。この人が出版してからライラが来るのかと思ったら、取材と同時だったので、「え!早」と思った記憶まで思い出した。ところで、この場面のシンクレア、足が悪いんだよね、だから杖なんだね(散歩のリクエストに結構しっかり歩いていたように見えたが・・・)。ナレーションで「ライラと別れてから15年」とあって、ものすごくびっくりした。初演の一路さんは、もっと老けてた。だから30年くらい経ってると思い込んでいたので、驚愕。でも計算してみれば、士官学校卒業すぐの話だから、まだ22~23歳の頃。それから15年でも30代!まだまだ若いやん!・・・とびっくりしたが、よく考えれば30年前の私は若かったので、40前はもう年寄りだと思っていたのかもしれない。はるかに超えた年齢に達した今となっては、40前なんて若者よ。その意識の差と思うと、年月の経過にまた愕然とする。

リサ 愛蘭 みこ
途中でいきなりソロがありびっくりした。綺麗な歌声でした。


ストーリーについて思ったこと。
シンクレアは上司殺害だから、本来なら有無を言わさず死刑なのかなと。だが、その後の内戦などでゴタゴタし、また基地司令官が緘口令を敷いたので事件そのものも発覚せず、苛立ったノヴァロが告発したからの軍事法廷・・・だと思う。ノヴァロだって優秀な軍人だから正義感がある。黙っていられないでしょう。だが裁くほうも、事件当時と法定開廷時では価値観が変わっているので、難しかったでしょうな。それは検察官と弁護人のクリフォードとの論戦でも言われているし。
シュトロゼックとハウザーとシンクレアの考えと行動は、ルコスタ州の独立を達成させ、クロイツェル基地にいる800人の軍人の命を救い、ルコスタの独立にかかる内戦を回避した。彼らはルコスタにとっては恩人だ。だが、ルコスタがすんなり独立したために、他の州も独立を希望し、各地で独立戦争が起きその後何年も内戦が続いたと。クェイド少佐(やノヴァロ)や中央軍はこの「各地で起こる独立戦争=内戦」を防ぎ国力を低下させたく無かったのですよね。だからクロイツェル基地を犠牲にしても、国の崩壊を防ぐためにルコスタを独立させないという決断をしたのだな。内戦は確実に国力を低下させるし、その最中に外国から侵略されたら国そのもの終わる(近くに侵略してきそうな軍事大国もあるし)。こちらの考えを取った軍首脳部を非難することは出来ないと思うの。(まあ基地に居る人やルコスタにとっては「無慈悲な敵」だけどね。)
結果として、どちらのほうが良かったんだろうって、考える。目の前の800人とルコスタ1州。対して国中を巻き込む長期の内戦。その議論の結果が終身刑なのでしょう。ルコスタからの嘆願で恩赦もでたし、これも織り込み済みかと。
正塚先生の当時の作品は、かなり「考えさせられる」ものが多くて、今回もいろいろ考えてしまいました。30年前に見たときは、単純に「謀略して味方見殺しとか、軍本部ひどーい、極悪。敵!」と思ってたけど、改めてクェイドやノヴァロ見てたら、そんな単純な話じゃないことが分かった。全体最適と部分最適。ってまとめすぎかもしれないけど、為政者は考えなければならないことが多いね。とりあえず、この「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」をまとめて国にした偉大な大統領が凄すぎる。チトー大統領が亡くなってすぐ頃が初演で、その後作品に描かれた通りに6つの国は全部独立してユーゴスラビアって国は消滅、まだきな臭いですが。この人ありきの国だったんだわ。ってこの辺りは、銀河英雄伝説とか十二国記とかを思い出した。

GWに見たのはこれだけ。月東京も見たし、雪組も見たのに書けてない・・。




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