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「魔界転生」新歌舞伎座 [観劇感想(その他)]

新歌舞伎座「魔界転生」
20216月9日(水)16:30 50回目 1階17列


一応宝塚以外は自粛していたのですが、近所だしいいやと思って見てきました。
ということで、宝塚ファンが書いてます!って前提です。

映像というか背景というかモブの人というか、結局は装置なのだけれど、それが超豪華。これは見ごたえあり。
1幕は人物紹介で、少々眠気も襲ってきた。話が進まないから、舞台上にご贔屓でもいないと集中力が途切れる今日この頃。ここまで75分、休憩25分を挟んで2幕。全員揃ったところで、物語がやっと動き出す。ここからは面白かった。100分があっという間。
100分の中にはフィナーレもついていて、私の馴染んだ1本建て風で嬉しい。全員の総踊りはいいねえ。お役お衣装のままですが、結構なダンス場面があって満足。
物語もいろいろ伏線などがあり、因縁の対決や、宿命のライバルなど、それぞれの「縁」が興味深い展開だった。
私が見た回は通算50回目、千秋楽イブだったので、5本締めをやって盛り上がりました。
楽しかった。

202106魔界転生表.jpg

魔界転生
原作:山田風太郎 脚本:マキノノゾミ 演出:堤幸彦


映像が超豪華。出演人数はそう多くないはずなのに、宝塚歌劇団の大劇場公演並みの人数に見える。人海戦術が可能で戦闘場面が超豪華なのは、素晴らしき映像のおかげ。映像はモブの集団が映像に見えないほどの凝った映像であり、お城や森の中のセットに早変わりする素晴らしさ。一面の背景だけではなく、紗幕を使ったり、映像を映すセットがいくつも組み合われ、上下左右前後に立体感が出るという仕掛け。斬られた人が違和感なく装置の陰に入り、映像で血を噴き出して死ぬとか、もうバーチャルだよ。すごい!と感動して調べたら、松井るみさんでした。この方の舞台装置は大好きだ。超豪華で美しく、映画を見ているような臨場感に溢れている。
また魔力で吹き飛ばされた人がワイヤーで吊られて本当に吹っ飛んだように見える。四郎さまなんてふわふわ宙に浮いている。ワイヤーアクションも、映像と人との融合も、違和感がなくて素晴らしい仕上がり。ここまで流麗な仕上がりは初めて見た。ほんと、定点カメラ(自分の座席)から撮影される映画を見ているみたい。アップにしたいときは、オペラグラスを使うけど、全体を見逃すのがもったいなくて、大勢が出ている場面では使わなかったくらいだ。最近の演劇は、ここまですごいのね!と感動しきり。

内容については。主役が十兵衛なのが、2部で納得できた。1部は天草四郎が主役のようだったから。盛大な前振り(死亡前の天草の乱)の話があったので、彼にはもっと強い信念や、新世界構築への野望があるのかと思っていたけど、そうでもなかった。あるのは恨みだけで、しかも平将門頼みってアンタ・・と思ってしまったくらい。まあ16歳だっけ。天草の乱当時は声も高くて可愛かったしね。魔物になってからは、雰囲気がヤサグレてしまっていた。あれではクララお品さんも気になって仕方ないと思う。結局、彼はまだ少年で、柳生十兵衛という男気溢れた大きな男の度量に救われたのかな。
その柳生十兵衛。間違いなく主役だと分かったのは、話が進むにつれ、重要場面が彼を中心に動いて行ったから。だが四郎との関係というより、父・柳生宗矩との関係のほうが重かったように感じた。父との関係では、十兵衛も葛藤しているからですね。四郎との関係は、もう一方的に父性みたいなものを発揮していたような気がする。弟みたいに思っていたのかという気も(十兵衛は弟の又十郎を心から可愛がってますから)。常陸が剣を打つ際に、「四郎を心から哀れに思うものの心臓が」と言い、それに「自分が提供する」という十兵衛。多分、十兵衛の心臓でも機能したと思う。
あとは、柳生宗矩と宮本武蔵の因縁、十兵衛の無念無想と荒木又右衛門のプライド、田宮坊太郎と柳生又十郎の友情関係、淀度とお品の秀頼への愛がつなぐ関係。魔界七人衆はそれぞれ、執着に思う相手がいてその戦いが見せ場だった。と書いてて思ったが、槍の宝蔵院胤舜さんは、執着相手が自分だったので自己完結な人だったから、あっさり退場になってしまいましたな。(7人中4人が十兵衛が相手とは!さすが主役)
1幕のラストで魔界7人衆が揃ったところを見て、味方と敵の違いはあるけど『髑髏城の七人』を思い出してしまった。7というのはおさまりの良い数字なのだな。

意外に大活躍なのが根津甚八さん。彼がいないと話が進まない場面が多々あった。影の主役とまではいかないが、最大のキーマンではないだろうか。いい仕事してました。彼の所為で『真田十勇士』を時々思い出した。両作品、雰囲気が近いような気がした。




<普通の生きている人>
柳生十兵衛(上川隆也)
将軍家師範という大変名誉なお家の長男。だが無念無想で執着というものがないので、後を弟に譲って家出。家を出すついでに、今回の事件を担当することに。
この人は事件があったらとても強くて頼りになる乱世の英雄、だが平時は役立たずと言われることを喜び、ゆったりと無為自然に生きる人、なんだと感じた。柳生の里でまったりと生きるのも似合いそう。似合わないのは、自覚している通り「宮仕え」だろうね。
剣が強いだけではなく、あれほど非情になれるのに情に篤く懐が大きい。中身が空っぽというより、どこまでも大きくなるから限りがないという意味で、懐が大きいのだろう。なんでも飲み込んでしまえる度量というか。上川さんはそういう平時は役立たずな大きな男を演じたら最高ですよね。声もしっかりしているからセリフも良く通るし、憧れる十兵衛さまでした。

柳生又十郎(木村達成)
弟。宮仕えがきちんとできる普通に優秀な人物。乱世の大将には向かなくても、平時の高級官僚ができるタイプ。兄の度量をしっかり見抜いているし、兄の愛も受け止め、兄を慕っている。優等生タイプだけど、似非優等生ではなく、本当の優等生。それは坊太郎が頑なな心を開いたほどの清々しさ、穢れなき心。誰かと比較して見せるための装った優等生ではなく、本物の優等生なんですね。兄とは年が離れてそうに見えたけど、本当に兄を慕い、兄も可愛がっている弟だというのがよく分かりました。違うタイプのイケメン兄弟だな。

お品(藤原紀香)
天草四郎の義姉クララお品。ということになっているけど、実は母。真田が秀頼を鹿児島へ逃げ延びさせた伝説が真実だとした物語。お品は実は鹿児島人のようだ。言葉はたまに長崎?ほとんどは江戸。まあ鹿児島弁で話されてもわからないけど。
結構たくましくて、島原の原城の落城も生き延びた。どんな思いで生き延びたのか分からなかった。まさか四郎の復活を予想してとは思えない。結果的に生き残って大正解だったが。淀殿と四郎が成仏できたのはお品のおかげ。淀殿との場面は、「この話をするために生きてきた」風であり、彼女の人生が見えたような気がした。そしてその後の続く場面も。覚悟を決めた女性は強いのかも、と思った。

根津甚八(村井良太)
真田十勇士の一人、生き残り。長崎の遊郭を経営したり、江戸の遊郭で働いたり、なかなか器用で仕事のできる人。彼がいないと話が進まないほどのストーリー展開上の有能人物。
豊臣派ながら、「何が何でも徳川を滅ぼす」なんて思ってなくて、国のこと(全体)を考えて敵であった柳生とも手を組む賢明さと度量がある。淀殿への憐憫の情も、お品の気持ちを汲み取って辛い役目を果たしてやることも、見事な人間性。実にいい男だ。十兵衛に一番近いのはこの男ではないかと思う器量の大きさだ。

小栗丈馬(岐洲匠)
戸田五太夫(宇野結也)
磯谷千八(小波津亜廉)
柳生の剣士たち。柳生新陰流に入門するには顔面偏差値も必要のなのか?と思うイケメン。戸田さんは最初に魔界人の滅し方を知るための犠牲になったので印象深い。ただあとは私にはよく分からないうちに終わってしまった。もう一度見る機会があればじっくり見たい。

由比正雪(山口馬木也)
天草の乱の最後に、四郎の最後の時を逃さず、魔界転生させた人。晒された四郎の獄門首をよみがえらせた人ですな。黒幕かな?と思っていたら、そうでもなくただ操られた人でしたね。偉大な魔術師でもないようだし。ズルい小悪党でちょっと情けないけど憎めないタイプのインテリって・・劇団☆新感線なら栗根さんがやりそうな役だな~なんて思って見てました。(新感線で上川さんとの共演もあったもんね。なんか既視感があり、ビジュアルが見えるよう)

叢雲常陸(山口馬木也)
正雪の親戚の、天才刀鍛冶。あらなんかまた髑髏城が思い出される(笑)あれほど強烈じゃないけれど、楽しいおじいちゃんだ。でも腕は良さそう。厳しい納期もこなし、非情な刀を作ってくれた。


<魔界の人>
天草四郎(小池徹平)
冒頭場面はずっと島原の乱なので、四郎が主役かと思った。(宝塚ファンなので花組公演「MESSIAH」の明日海りお四郎さまが浮かんで仕方ない。)生前の四郎は、とても繊細で総大将に祭り上げられた不安と三万を超す人の命を背負う重責や戸惑いが見られ、16歳の少年の素顔がのぞいていた。原城の人々の死にゆく場面を背景に、由比正雪が出てきて、死の間際の彼に執着を囁く。まだ精神の弱さのある彼はそれに堕ちた。冒頭なのに印象的な場面。ここまでなら彼が主役で敵は由比。(その後、魔界に七人衆の死と復活で1幕が終わるので、なんか違うとわかる)
魔界人として復活した四郎はヤサグレ。なぜか生前全く興味がなかった平将門に傾倒している。なんで?!ってびっくりした。1幕ラストのほうは睡魔も来ていたので、何か見落としたのかもしれない。
復活したメンバーの中では、桁外れの魔力を使えるため統率者。淀殿をおばば様と呼び、他のメンバーとは違い、親しく接する。方便ではなく本気でおばば様が好きだったように見えた。おばば様が成仏してすごく寂しそうだった。というか、自分が秀頼の子と知ってのたら、母のことを知らないのはなぜだ?母も最期には教えてあげてよ!と思ったわ。反乱軍の総大将に祭り上げられていた孤独な魂は、十兵衛にまるっとと受け入れてもらえて成仏できた。なかなか感慨深い四郎であった。

宮本武蔵(渡辺大)
宗矩とどんな因縁があったんだ?かなり長そうなお話がありそうだ。こちらも宝塚ファンなので月組『夢現無双』の珠城りょう武蔵が思い浮かぶ。この武蔵は美しくない衣装のおじさんだが、目指していたことと無念さはよく分かった。武蔵が目指した無念無想。柳生宗矩も目指していたようなので、これは剣士にとっては究極のものなのだろう。それを目指している段階で無念無想にはなれないというもの。自然に体現している十兵衛を見て、「ああ無念無想とはこれか!」とわかった。この3人の関係もとても興味深い。宗矩はとどめを刺さなくて、最後は十兵衛が倒してあげた。


荒木又右衛門(財木琢磨)
人生が上手くいかなかったのね。一時脚光を浴びたと思ったけど、池田の正室の所為で首に。そこから転落したのかな。女への恨みが凄かった。そして将軍指南役という全国の剣士の憧れという役職を、拒否する十兵衛への恨み骨髄。なんかわかる。そういう言うところが無念無想なんだけど、だからなおさら腹が立つの。彼は無念を一番激しく表していたと思う。

田宮坊太郎(田村心)
生まれたときから仇討が決まっていて、やっと果たして自分の人生を生きられると思ったら結核で死ぬ運命しかない。もうやりきれないのがよく分かる。学校さぼって不良になるよね。裕福な家の健康な委員長が説得したって聞く気ないよね。でも、委員長は本心から言ってくれていたのがわかって、心を開けた。成仏できた。なんか中学生日記みたいだ。

宝蔵院胤舜(野添義弘)
己の欲望と戦っていたから誰とも絡まず、一番に死んでしまい、魔界の人の倒し方の事例になってしまった。ある意味執着があるのかないのかわからない。

淀殿(浅野ゆう子)
執着は息子だけ。だから孫に会えて、嫁と話して、息子が幸せに生きて死んだことを知って成仏した。あまり魔界の人という気がしなかった。なぜ彼女を復活させたのだろう?

柳生宗矩(松平健)
人生に悔いなさそうだけど、無念無想には執着していたのか。それを体現する息子への複雑な思いがあり、そこを突かれたのね。この方の複雑な心境は、人のときも魔物の時もすごく伝わってきた。
ところで。殺陣が見事。主役の殺陣ですね、偉い人の戦い方。素晴らしい!ずっと見ていたい殺陣だ。

久しぶりに宝塚以外の舞台を見た。映像が素晴らしくて、人数の少なさを感じない豪華絢爛ですごく楽しかった。宙乗りも見事に馴染んでるし、最近の技術はすごいのね。



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