SSブログ

宝塚宙組「壮麗帝」DC [観劇感想(宝塚)]

宝塚宙組「壮麗帝」
2020年8月15日(土)梅田ドラマシティ 24列センター

宙組さんは公演があった。当日までハラハラしながらも無事見に行けました。
トルコのオスマン帝国の皇帝の一代記。歴史で習ったけど、宝塚で上演の多いフランスと違い、ちょっとあやふや。でも説明はちゃんとあった。
なにより、大変分かりやすく宝塚的!これも昔の再演?って思うようなオーソドックスな演出、安心できるストーリー展開。出演者は美しく役に嵌っていて、歌も芝居もダンスも安心してみていられた。衣装が豪華で何着もあって驚いたほど。
ストーリーは、「アレクサンドラとイブラヒム、どっちがヒロイン?」と思った(笑)。2番手比重の高い物語ですね。かといってヒロインも軽くない。相対的にどちらも同じくらいになって、ヒロイン(?)がわからなくなったわ~


202008宙壮麗.jpg

オリエンタル・テイル
『壮麗帝』
作・演出/樫畑 亜依子

大変宝塚的な作品だった。昔の宝塚的な良さを持っているというか、古典的な演出というか。若い先生だと思うのですが、全然思えないくらいオーソドックス。30年前の再演といっても納得してしまう雰囲気。(もしかしたら入れ替わり順番セリフはコロナ対策かもしれないですね。)
ゴージャスでキラキラした衣装とセット、美しき高貴な方々の物語、周囲に反対される激しい恋、対立する親友・・・まあ盛り沢山。この作品は偉大なるスレイマン大帝の一代記(といっても最後まで行ってない)だから、彼の人生のメイン的な部分が淡々と語られる。彼の人生を彩ったのは掟を破り皇后にするほど愛したアレクサンドラ(ヒュッレム)と、同じく自分が奴隷から拾い上げた有能な右腕である親友イブラヒム大宰相。スレイマンとアレクサンドラ、スレイマンとイブラヒム、この両者はどちらの関係もかなりドラマティックで、そのどちらにも焦点を当てたから、ちょっとどこがクライマックスなのかがわかりにくかった。どちらかに絞ったらよかったのに・・・
と書いていて思い出したが、名作『黒い瞳』と同じ作りだな。大好きな作品だ。あの作品も、ニコライとマーシャ、ニコライとプガチョフという2つの軸があった。あの作品は明らかにニコライ&プガチョフの物語が大きな扱いでクライマックスがはっきりしていた。敵対関係だったからかもしれない。マーシャは味方で愛しい人、プガチョフは憎めない否、親愛の情を感じるのに戦うように命じられた敵。立場がはっきりしていた。
ところが、『壮麗帝』のアレクサンドラは愛する人で味方、イブラヒムも親愛の情を堂々と表に出す味方。なんといっても主役は絶対権力を持つ皇帝だし!
アレクサンドラとの関係をメインにするなら、母后の反対やハレムの他の女たちに虐められるアレクサンドラとか、嫌いじゃない第一夫人やその子である第一王子との関係をメインに。それならラストは現状の「最後まで愛しぬいたアレクサンドラの死」でハッピーエンドといえるのでは?
イブラヒムとの関係をメインにするなら、敵国サファヴィー朝との関係と、帝国運営に関するイブラヒムとの考えの違いをもっと際立たせてほしいもの(場面増やして)。それならイブラヒムの処刑がクライマックスだよね。
どちらも適度に入っていて、どちらもクライマックスがある。だから焦点ぼやけてしまったのではないかな~なんて思ったのでした。まあ贅沢な話ですが。


スレイマン 桜木 みなと
オスマン帝国の偉大な皇帝。ヨーロッパ人奴隷のアレクサンドラを愛して、帝室の掟を破り彼女を皇后にしてしまう。そのため後世子孫が大変なことになるのですが、それは置いといて。スレイマンがアレクサンドラに惹かれる場面はとても印象的でよかった。出会いの後、ちょこちょこと入ってるんですね~素敵なシーンが。そこまではいいのですが、アレクサンドラ強すぎ。スレイマンの母には反対されるけど妹とは仲良し。当時皇太子を生んでいた第一夫人に対しても一歩も引かない。すごい強さ。スレイマンが守ってあげる必要なし?と思えた。後宮ではアレクサンドラ一人勝ち状態に見えたのも、二人の愛の障害が少なく見えて残念。第一王妃の陰謀だって、窮鼠猫を噛む状態にみえたもの。第一夫人の自衛的先制攻撃に見える。やはり愛には障害がある方がいい(私の好み)
そしてイブラヒム。途中まではもう大絶賛の親友。その二人の意見が分かれるところがなんかね、ちょっと薄い。もっと激論してほしい。スレイマンももう少しちゃんと説明してあげればよいのにと思った(まあ皇帝だし、できないのかも)。
スレイマン自身は英明な皇帝だと思うけど、言葉が足りない人。人の話は聞くけど、自分の想いは語らない、言わなくても通じると思っているような。アレクサンドラとは上手く関係が築けていたけど、その他の人(第一夫人、息子、宰相たち)とはどうかな~意思疎通ができてる?という関係に見えました。このラストにはなかったけど、スレイマンは、イブラヒムに不要だと言い続けたハンガリー遠征で死ぬんだもんね。やる気あるなら長期計画ということをちゃんとイブラヒムに話してあげてよ、と思ったのでした。
桜木さん、お鬚が合うのね!!かっこいい。皇帝の威圧感ではなく、真摯なのに育ちの良い人にありがちな鈍感力が見事でしたわ。衣装は壮麗で豪華で、どの衣装も素敵に似合ってたけど(特に紫の長衣が好き)、暑かっただろうな・・・客席は寒かった。

イブラヒム 和希 そら
南ヨーロッパ人の奴隷。スレイマンに献上されて、気に入られ能力を認められ、奴隷なのに宰相にまで出世した有能な人物。なんと皇帝の妹姫を妻にくれるという破格の待遇、家族に迎えてくれたってことやん!それゆえ、自分を拾い上げてくれたスレイマンを絶対視していて、彼のためなら何でもやってしまう。意見が分かれた政策も、イブラヒムなりに勝算があり、たとえ本人に反対されても帝国を拡大し、スレイマンの名誉を高めたかったのでしょうね。そのあたりの気持ちはとてもよくわかりました。対スレイマンには、もうちょっと狂信的でもよかったかも。最初から最後までいい人だったもの。

アレクサンドラ(ヒュッレム) 遥羽 らら
東ヨーロッパ出身の奴隷。奴隷に売られても自力で逃げ出し、解放されても「こっち(お忍びスレイマン)のほうがいい」と素晴らしい勘と強い押しで人生をうまく渡っていく。初登場場面から、その強さは見えていました。その後、皇帝の後宮に入っても物おじせずに堂々としていて、怖いものなし。失うものが何もない無敵の人なのか?いや違う、荒んだ雰囲気は全くない。彼女の強さは、運命は切り開けると自分の力を信じている強さ。本作中一番の強さを感じました。
スレイマンもそういうところに惹かれたんだろうなあと思う。思考の前向きな強靭さ、それを押し通す意志の強さ。それであの楚々とした美人なら入れ込んでも仕方ないよね、と納得。
第一夫人に対しても一歩も引かないし、反対する母后なんて全く気にしない。その他大勢の夫の側女たちなんて視界にも入ってない。強いわ!
遥羽さんは、若いころよりも晩年の母となり皇后となり落ち着いたアレクサンドラが最高に美しかった。


<オスマン帝国皇室>
ハフサ 凛城 きら
スレイマンの母。この方の出自はどうかわからないけど、掟に従えば奴隷出身。声に威厳があり、皇后らしく毅然としてまるで貴族出身の女性のようだけど。トルコの後宮では、皇帝の母になってこそ勝利だから、ハフサは勝者。だけどアレクサンドラには負けているように見えた。
そういえば、皇帝の息子を産んだら次の息子は生ませないって話で、だからアレクサンドラも第二王子(メフメト)の後は、他の側女に譲って控えなさい!と言われていた。でも、ハフサもスレイマンの妹を生んでるよね。たまたま王女だったけど、王子だったら掟破りでは?と気づいてしまった。だからアレクサンドラにも強く言えなかったのかしらん。それほど適当な掟なら、スレイマンが破るのもハフサや女官長が言うほど大変でもあるまい。
一応ハフサが一番アレクサンドラのことを反対していた最大の敵っぽかったのに、あっさり「母后様は亡くなられ」の一言で退場されてしまいました。もっと第一夫人と第一王子に肩入れするとか、わかりやすく敵対していた方が残れたかもしれない。
なんとなく凛城さんの女役ばかり見ているような気がする。女役をされているときの印象が強いのかもしれない。威厳ありました。怖かったです。


ハティージェ 天彩 峰里
スレイマンの妹。イブラヒムの妻、ハフサの娘。性格がスレイマンによく似ている。だから彼も妹を可愛がったのだと思う。母はもっと身分の高い人か外交政策のために外国へ嫁がせたかったように見えたが、兄が甘くて恋人である親友と結婚させてあげた。幸せな人だ。
とても可愛らしい。アレクサンドラとも親しくて、優しい。久しぶりに戦場から戻った彼女の夫と「二人きりで話したい」というアレクサンドラの頼みも、あっさり承諾する邪心の無い人。この時代の後宮育ちの王女なんてこんな思考なのかもしれない。だから同じ育ちのスレイマンが意志の強いアレクサンドラに惹かれ、奴隷上がりのイブラヒムが天真爛漫なハティージャに惹かれたのだろう。
彼女とイブラヒムに子供はいなかったのかな?出てこなかった。最後は可哀そうでしたが、とても可愛らしい女性でした。天彩さん可愛いわ。


マヒデヴラン 秋音 光
第一夫人で第一王子ムスタファの母。最初、娘役のお姉さまかと思ってました。でも声が低めでちょっと迫力ありすぎ?とプログラムを見て男役さんだと確認しました。
あの女が現れるまでは、皇帝は彼女を尊重し、それなりに愛しあった良い夫婦だっただろう。優秀な後継者たる一人息子もいて、順風漫歩な人生だったと思う。それが!だもの。計画決断が遅いくらいだ(過激でごめん)。彼女の不安と嫉妬と、絶望がとてもよくわかりました。息子を思う気持ちも。(アレクサンドラは皇帝だけで、息子への気持ちはあまり感じられなかったから、余計にマヒデヴランからは母の愛を感じた)。自然で上手い。本当に男役さんなのかと思うほど上手かった。

ムスタファ 風色 日向
第一夫人の一人息子。優秀で有力な後継者といわれていたのに、いつの間にか後から生まれた年下の弟メフメトが皇太子に。そのメフメトが亡くなっても自分が顧みられず、結果、不安になった母の凶行が露見し、諸共に地方へ飛ばされた。それはすべて掟破りをしながら、そのフォローを全くしていない父皇帝に責任がある。彼はかなり父への反感があると思われる。
だから反乱に立ち上がった。でも力不足で敢え無い最期・・父なりにムスタファを愛してはいたと思うけれど、あの父は子への愛は薄くて、彼にも彼の母にも伝わらなかった。
ところで、反乱の時、ムスタファ軍は銃を持ってた。ついさっきまでみんな偃月刀で戦っていたのに!なぜ急に銃?と驚いた。当時の最新兵器でしょ?人望あるなあ。
風色さん、髭似合わない…可愛い丸顔に髭は無理って思いました。アラブ世界だから成人男子に髭は必須なのだけど、無理が見えてしまう若さ全開でしたね。二役の「奴隷商人」も似合ってなくて。ゲスいオヤジに見えなくて、丸くて可愛いのだ。

エレナ 花宮 沙羅
アレクサンドラと同じ日に同じ身分で後宮に上がったのに、皇帝に全く無視されてしまい、哀れな後宮生活を送る羽目になってしまった人。アレクサンドラへの恨みはよくわかる。誰にも相手にされなくてもめげず、一人で「ザ・後宮」という雰囲気を醸し出してくれました。後宮の登場人物全員が、エレナくらいドロドロしてくれたら面白かったかも。


<オスマン帝国臣下>
アフメト 鷹翔 千空
名門出の宰相。奴隷上がりに大宰相の地位を取られ、大変不満。奴隷がでかい顔するのが許せない。それなりに有能そうだから、余計に腹が立つのでしょう。彼のイブラヒムへの反発と蔑視はかなり正直で、わかりやすかった。皇帝が放置しておくからこじれたんだよ…と思ってしまうほど露骨な態度だった。アフメトはそういう仕打ちを平気で続ける皇帝まで見捨て、蜂起して失敗、素早く敵に寝返る。そしてあっさり破滅する。素晴らしい!なんて様式美。大変分かりやすい悪役でしたが、実は一番共感したかもしれない人物。気持ちがよく分かったわ。
鷹翔さん、背が高くてかっこいい。髭の似合う大人の男。最初もっと上級生だと思ったほど貫禄もあった。さすがは貴族の宰相。そして芝居も上手い。今回一番注目してみていました。

マトラークチュ 悠真 倫
歴史家で語り部。先々帝の代から皇帝の一代記を書いている人。ちゃんと年齢を感じられる語りと声と態度。さすが悠真さん。彼が若いとき、年を取った時とちゃんと演じ分けていたので、今がいつか回想場面であってもわかりやすかった。
今回、スレイマンとしか会話してませんね。


女官長 花音 舞
おそらくハフナ様の一番の味方。後宮の秩序を保とうと頑張っていました。それがよくわかり、貢献度が高かった。アレクサンドラとはお互い嫌いあっていたかも。

宦官長 七生 眞希
宦官らしさのためか、ちょっとナヨナヨとされていた気弱そうな方。女官長が強そうだから、押しに負けたか。

女官ファティマ 里咲 しぐれ
アレクサンドラ付きの侍女。彼女はアレクサンドラの力強い味方。アレクサンドラの出世がファティマにとっても出世。ファティマの存在は心強かったでしょうね。


<敵国サファヴィー朝>
ギョルゲ 希峰 かなた
フサイン 水香 依千
どっちが王子でどっちが宰相わからない。ごめんなさい。オスマン帝国(スレイマン)の敵でイブラヒム編では大変重要な役割なのに、あまり大きく扱ってもらえてなくて残念。(大きくというのは、スレイマンがいないサファヴィー朝の場面があることね。暗躍が見たかった)。


フィナーレがありました。ああ宝塚!というオーソドックスな衣装とダンス場面。定番ですね、安心するわ~落ち着く。パレードはまた衣装に。最後まで完璧な様式美、宝塚を堪能しました。
しかしこのお話なら、アレクサンドラかイブラヒムか、ヒロインを一人に定めて1本90分に出来たと思う。残り50分は華やかなアラビアン・ショーにして大劇場用にリメイクしてほしいなあ~なんて思ったのでした。

ご挨拶
初日でも楽でもないが、別箱では必ずカーテンコールに主演から一言がある。桜木さんは「この奇跡のような公演」とおっしゃっていました。確かに大劇場は花も星も休演中、この後の雪も延期とくれば、今公演しているのは宙組だけ。ほんと奇跡のよう。一回一回が貴重なのだと、改めて実感しました。


こうして書けるのも幸せだな~と思いつつ、なぜ時間がかかったかというと。終演後に友人と夕食を食べ感想を話していたからだ。こうして書くのは「感想を語る」ことだから、それをしてしまうと満足してしまって、なかなかPCに向かう気力がでてこないのね~と自己分析。一人観劇ほど早く書ける。ほとんど一人観劇だけど・・。
これでまたしばらく観劇予定が無くなってしまった・・チケット持ってる雪組の延期上演を祈ってます。



nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。