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帝国劇場「ミス・サイゴン」 [観劇感想(その他)]

帝国劇場「ミス・サイゴン」
2014年7月31日(金)13:30~ 2階I列


7月31日に突然東京で会議が入り、しかも午前中。午後から解放されるというので、
久しぶりに帝劇へ、新演出だという「ミス・サイゴン」を見に行くことにしました。
そしたら市村さんが休演で、駒田さんに変更。キャストは特に気にせず取ったチケット
だったので、問題なし。。(だって観れる時間が決まってるから)

それより新演出とやらを楽しみにしていたのですが・・・あんまり変わってない?
記憶にある「ヘリコプター」や「キャデラック」「混血児の映像」なんかはそのままあった。
キムとクリスの結婚式のところが変わったかな~エンジニアのサイゴンの店が変わった?
とかそういうマイナーチェンジ。わざわざ「新演出」というほどの変更は感じなかった。
同じ作品でも、「新演出」とも何も言わずに、もっともっと激変することが多いので、
(宝塚ですが)このくらいなら、わざわざ変更といわなくてもいいレベル、ですな。

ストーリーも台詞のそのまま。ですが、演出的には大変エロティックになっており
これは高校生には見せてはいけないのでは・・・と思うほど刺激が強い場面が増えていた。
エンジニアのサイゴンの店と、キムが働くバンコクの店と。ものすごく18禁という雰囲気。
それから、私の主観ですが、以前よりクリスのダメ男ぶりが強調されていたような・・。
より一層、キムが可哀想な結末です。もうちょっとクリスがしっかりしてれば・・と思う。
以前に見たときより、その思いが強くなった。少しは変わっているのかも、脚本。


ネタバレあります。



「ミス・サイゴン」


幕開きは、サイゴンの歓楽街にあるエンジニアの店。そこで春を売るベトナム女性たち。
群がるアメリカ兵GI..だから当然といえば当然なんだけど・・・エロい、ものすごくエロい。
この作品で出てくる衣装って、汚いかエロチックかどっちか、という極端さ。
娼婦役の方々の動きがまたとてつもなくエロい。そしてGI役の方々も生々しい。
戦争中の話なんだから、ボロ服は当然、そして戦時下の闇の部分を描いているからね。
とはいえ、いつも豪華で綺麗な衣装(と美しい登場人物)を見ているので、私的には
かなり衝撃だ。泥臭い、人間の情念が渦巻く世界。綺麗ごとではない世界だ。
ストーリー的にもテーマ的にも大変優れているし、歌も皆すばらしいのであるが、
これは高校生以下には見せないほうがいいと、真剣に思った。以前の演出の方が
エロさは低かったような・・・なんでこんなに大人向けにエロ度をアップしたんだ。
折角いいテーマなのに、子供に見せられないよ、これ。
エロエロ言ってるのもなんなので、お話について。

アメリカ兵のクリス(原田優一)が大変なくず男で、こいつが諸悪の原点だ!!
というのが感想。彼は大変心の弱い優しい男なんでしょう。戦争になんて行かず、
大人しく田舎の区役所にでも勤めるか、農業でもやってれば良かったのに。
なんで戦争に行ったのか分かりませんが、そもそもが間違い。大人しく国にいるべき。
つまり彼は平時には善良な一市民であるけれど、戦時には優しさが弱さと化し他人を
傷つけてしまうだけの存在というロクデナシの屑男になってしまうのだな・・・。
(ヒドイ言い様ですが、彼が自分をしっかり持ってたら、サイゴンでキムに惹かれ
本気にならなかっただろうし、また帰国後すぐに結婚しなかったと思う。さらには
辛かった過去は無かったことにしたいとか、もうね、どうしようもない弱い男だ。
ラストシーン、きっと子ども(タム)を引き取るとは思うけれど、タムの顔をみると
キムを思い出し、そのまま自分がキムにした酷い行為、その原因であるベトナム戦争を
思い出すからと、子供にもきつく当たりそう。トラウマ思い出すから出て行けとか・・
エレンとタム、苦労するぞ。子供だって成長して実母のことを知れば
父親を恨むでしょうしね。ここはエレンがしっかり育てないと、タムまで不幸になる。
ま、エレンはしっかりしてるみたいだから大丈夫そうだけど。意外とエレンがタムを
連れて離婚して、それで幸せになれたりして(笑)
クリス役の原田さんにはまったく非は無いのだけど、・・クリスのイメージ、気弱で
善良な女にすがって生きる男・・・なんかぴったりだった・・。

キム(昆夏美)は健気で可愛い。精神的にも堕ちてしまったサイゴンの売春婦の中で
まるで掃き溜めに鶴のような印象(失礼)。だからクリスは彼女に惹かれた。
多分、後一ヶ月くらい後なら、キムも賢くなってるから、あのダメ男と純愛は無かった?
タイミングが悪かったね。まだ真っ白だったもの、あの時点でのキム。
だからこそ、誠実なアメリカ人というだけで、あのダメ男を信じ愛してしまった。
きっとすごいフィルターかかって見えてたんだよね。それでずっとずっと信じ続け、
いつか迎えに来てくれると待っていた(確かに、「迎えにくるから」と出かけている)。
必至の思いで、子供と二人で生き抜いてきたのに。殺人までして生きてきたのに。
キムは、エレンの存在を知ったとき、心折れたんだね。彼女が信じて愛していた男は
幻に過ぎなかったことに気付いて、もう生きる支えが無くなった。

ジョン(岡幸二郎)はクリスとは正反対の、実は誠実な男。クリスは一見誠実そうに
見えるが、その時々はそう思っているが、時々の感情に流されているだけ。
先のことも、相手のことも何も考えていない。それに比べ、ジョンは、ベトナム娼婦とは
遊びとはっきり割りきり、相手にも分からせ、金の関係とビジネスライクに接している。
真剣に関わることが出来ない、あとから責任が取れないことが分かっているから。
ジョンの方がよほど誠実だ。そして、その後彼自身はそんなことをしていないのに、
混血児の救済活動に奔走している。クリスのようなダメ男の尻拭いだ。
偉いなあと思う。それは戦時中の場面でも感じる。基地が陥落するという切羽詰った
場面で、「恋人が~」とか浮かれている馬鹿男に、彼は活を入れてる。ジョン自身は
しっかり軍人として自分の役割を自覚し、的確に仕事をしている。
それにくらべて、あのバカモンは・・おまえさん、何しにベトナムに来たの?って感じだ。
彼は良識あるアメリカ人として登場していた。
そのジョン役の岡さん。なんか老けた・・?しばらく見ない間に中井喜一さん?という
風貌になってた。レミゼのアンジョルラスを演じて居た頃と比べちゃならんのだけど、
それでもあの好青年が!?好おじさんになってる・・?と少なからず衝撃を受けた。

良識あるアメリカ人といえば、エレン(木村花代)もそう。もともと看護婦さんか
なんかでしょうか? 妙にしっかりしていて、ちょっと病的なクリスを献身的に
支えている。ベトナム帰還兵で病んでいた彼を看病しているうちに、それが愛だと
思ってしまったタイプかしら? クリスも「頼りすがれる女性」を見つけて、全力で
すがり付いているように見えたし。ともかく、彼女はあのダメ男に対し、
「私がついてなきゃ」と思っているようだ。そういう愛もあるかも。
でもエレンも、キムの辛い人生を思いやることが出来る賢い女性で、だからこそ
最初は「クリスがキムを選ぶなら、私は身を引く」と歌う。素晴らしい女性だ。
だが、クリスはエレンを選ぶだろう。いま平和なアメリカで、すがりつくとしたら
それは絶対エレンのほうがいいから。キムはアメリカでは彼の癒しにならず、
逆にすがり付かれてどうしようもなくなる。彼には耐えられないことに違いない。
やっぱりあの男が元凶なんだよね。。きっぱりキムを捨てて言ってくれていたら、
キムもそこまでクリスに幻想を持たなかっただろうに。
だってトゥイ(神田恭平)も居たもんね。親が決めた婚約者である彼のことは嫌い
みたいだったけど、トゥイはかなり照れ屋というか、この時代のアジア男というか、
好きな女の子への愛情表現が大変へたくそであったのだと思う。トゥイだって
もっと小さい頃からちゃんとキムに好意しめしとけば、あの子なら待っててくれたのに。
それでなくても、彼女の親が死んだときにすぐに助けに行ってれば・・そしたら
クリスにもひっかからず、トゥイと一緒に生きてくれたかもしれないのに。
キムにとっては(トゥイにとっても)、ぞっちの方がずっと幸せだったに違いない。

主役でありながら、恋愛に絡んでこないエンジニア(駒田一)。彼は彼でフランスとの
混血で、あの激動の時代、行き場を無くし、必至に生きてる。超がつくほど前向きに。
ひたすら自分の未来と可能性を信じ、他人を押しのけ蹴倒し、落としいれてでも
生きていこうとしている。その必至さには涙が出るわ。
この作品、登場人物はみな必至で生きているのだけれど、とりわけエンジニアの
必至さは身に迫るものがある(だって主役だからね)。
彼はあのあとどうしたんでしょう・・アメリカに行けたかな? 無理なような気もする。
タムだけがアメリカに行き、彼はそのままバンコクで、また新しい金づるを探し
VISAのツテを探し、必至で生きぬいたのだと、そう思いたい。


見ていてあまり気が晴れないミュージカルです。気分を変えてリフレッシュとかいう
演目ではなく、社会問題を提起し、それを考えろ!といわれている気がする。
そういう意味では、高校生に見せるのが相応しい作品かもしれない。
(あのエロだけ何とかして欲しいもんだ。)
こういう社会派ももちろん素晴らしい。いろいろ考えさせられるから。
しかし私はミュージカルには、ひと時の夢を見たい時が多いので、
こういう重い作品は、たま~に見るだけでいいや、と思いました。




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