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雪組「堕天使の涙/タランテラ」観劇感想 [観劇感想(宝塚)]

2006年10月15日(日)雪組「堕天使の涙/タランテラ」観劇感想
宝塚大劇場11時公演 2階4列センター 

久しぶりに雪組公演を見てきました。トップコンビが好みのタイプではないので、積極的に見に行く気がなかったのですが、演出家が好み(植田景子&荻田浩一)だったので行ってきました。

『堕天使の涙』(植田景子)
いやーよかった。ストーリーはしっかりしていて深いし、ロマンチックな演出がお見事。さすがは植田景子!という感じ。セットも大変凝っており、「予算豊富だったのね!よかったね景子さん!」と感動した。
デビュー(バウ「イカロス」)から見てるけどもう主力演出家といっても良いですね。しかも、宝塚の演出家さんって、○○さんは●●先生の系列、△△さんは▲▲先生の弟子ね・・という系譜のようなものが見えるけれど、植田景子氏は「植田景子流」という感じがする。この方はたしか私と同じくらいの年齢だったと思うけれど、「植田景子 作・演出」作品は、「女性客のツボ」をはずさないストーリー(たとえていえばゲーム「アンジェリーク」のような・・)、ロマンチックこれでもか!という華麗な演出(往年の少女漫画を舞台にそのまま再現したような)など、本当に「こういうのを見たいの♪」という論点が全部入っていて素晴らしい。
今回の物語ですね。ストーリーだけを読むと「ジャン・ポールが主役?」という感じです。確かに彼を主軸として彼の回りで話は進む。堕天使ルシファーはタイトルロールだけど、やはり「堕天使」であり、人間界の出来事に対しては「触媒」としての役割を果たすのみ・・その立場は「傍観者」でしかありえない。名作「エリザベート」の主役が(宝塚では)死トートであるとしているが、実は誰が見てもエリザベートが主役であるように。「死」とか「天使」とかは人間界の出来事に対しては、そういう立場をとらざるを得ないのかも。
ま、今回は堕天使ルシファーは、人間界の動きに心動かされるようですが、またそれもひとつの思い出となるだけで、去ってしまいます。この後、ルシファーが触媒となって引き起こされた出来事を背負って生きていく(生き方を変えていく)のは、ジャンポールを初めとする人間たちなのですね。なかなか素敵なラストでした。

ついでに、今回のラスト、「もう君たちに関与できない、あとは自分たちで頑張れよ(みたいな台詞)」で去っていくルシファー(朝海=今のトップ)と「あなたのダンスは忘れない」見送るジャンポール(水=次のトップ)。・・・これこれ!これが宝塚のトップの退団公演なのよぉ!!!!(さすが景子さん!わかってるねえ♪)
水さんも組替組みだけど(そりゃ星以外全部経験だもんね^^;)落下傘じゃないし、現トップと次のトップがずっと一緒にやってきて最後を同じ舞台で見送る、というのが良い。こうやって退団できる朝海さんは恵まれてるよね。もちろん後に続く水さんも幸せな出発だと思う。

すでにめちゃ長くなったけど、個別感想を。
今回はルシファーが「試した」人間関係のケースごとに書きますね。

▲ケース1:親子
<振付家ジャン・ポール(水)>
気鋭の振付家(権限が大きそうなので最初演出家だと思った)。彼と母親の関係が大変こじれているけど、これは現代でもそのまま当てはまるケースが多いと思う。母に愛してもらいたいから、同じ仕事(ダンサー)を選んで、成功して、でも見てくれなくて、それどころか妨害されてしまう。それを跳ね返し、逆に母を憎む気概が彼にはあった。負のエネルギーを元に彼は頑張って生きている、と思いました。(そこがルシファを惹きつけたのかな)
堕天使の誘惑にのって「死の舞踏会」の作品化を引き受け、仲間も彼も人間の醜い面を引き出され堕ちていく。最後は妹の死で救われ、おそらくは母のことも赦せる(理解できる)ような心境になったのでは・・
ラスト。母と「和解」はできないと思う。それほど簡単な感情じゃなかった。でも少しずつでも相手の思いを受け入れる余地ができて、自分の立ち位置を自分で作れるほどには成長した。と、そう思うのでした。
90分の中でかなり屈折した心理的をさらに複雑な変遷を表現せねばならず、大変な難役だなあ・・でも、わかったよジャンポールの心理。すごくカッコよかった。いい男になったね~♪

<母ジュスティーヌ(五峰)>
ジャンとリリスの母。かつてはオペラ座の花形ダンサー。二人を生んだためにそれまでのキャリアを捨てることになり、子供に愛情が持てないまま苦しんできた心弱い激しい女性。ジャンは母親似ですね。だからジャンとは敵対しながらやってこれたと思う。
仕事を持っている女性が母になると、それまでどおりとは行かない。これは現代でも絶対にいえる真実ですね。父になってもまったくといっていいほどキャリア(仕事)には影響しないのに、母は必ず絶対に影響を受ける。そのキャリアを得るために賭けたものが大きいほど失うことに耐えられないと思う・・・。その仕事である程度の達成感を得てしまってからならいいのかもしれないけれど、「まだまだ」と思っているときだったら、相当つらいと思う。そりゃ奪った存在を憎んでもしかたないのかも・・たとえそれば我が子でも。
子供と暮らす生活>仕事 であれば良いのだけれど、「仕事」の比重(思い入れ)が大きいと難しい。(私だって子供生んで2ヶ月で仕事復帰したもの。復帰できる仕事だったから良かった。当然、元通りとはいかないけど、そのあたりは妥協できる範囲だった~^^; )
この作品見て、いろいろ考えた女性は多いのでは?! テーマが深い、深いわ。
・・・本編のヒロインは間違いなくこのジュスティーヌだと思う。
久しぶりの五峰さん、相変わらず美しく、お芝居上手だった。「姐さん」という形容詞が似合う人だが、ジャン同様複雑な心理表現の多いこの役、大変だっただろうなあ。

<その夫ルブラン公爵(萬)>
ジュスティーヌの崇拝者でパトロン。双子を抱えて踊れなくなった彼女を結婚する懐の深い人物。・・・っていつ結婚したんでしょ? そういえば双子の父の売れないダンサーはどうしたんだ?(ここはやっぱり双子が生まれる前に事故で死んだとか?=少女マンガのお約束^^;)
双子がダンス習って一人前になってることからすると、双子が小さいときに結婚したのかな? ジャンって精神的にはアレだけど、育ちはよさそうだもん。彼がいたからジュスティーヌは、金銭的にとりあえず生きていられたと思う。でも夫には感謝しつつも複雑な感情もってそう~。それでも愛しているから妻にしたのよね、懐の深い夫、いいなあ。

<双子の妹リリス(舞風)>
ジャンの双子の妹。ジャンと同じく母に愛されたくて、母の大好きなダンスで頑張るのだけれど、頑張れば頑張るほど母には憎まれ・・という可哀想な娘。同性だから余計に憎まれたのか。「リリス」ってイブの前に作られた最初の女性で最初の魔女の名前ですね。ジュスティーヌは産んだときから憎んでたのね・・つらい名前だ。その名前でずっと生きてきたリリス。失明して失踪してからもリリスと名乗っていたみたいだし(違う名前を名乗れるくらいであれば失踪しないか)、そんなひどい名前でも「母がくれたもの」だから大事にしてたのかも>涙でるわ。
失踪してからひどい暮らしをしてたみたいで、自分を呪って神様呪って、行き着くところまでいって・・・いわば悟りを開いた状態で戻ってきた。ルシファがちょっかい出した<親子>は、彼女によって逆に救われることになった。最後に彼女は兄と母の魂を救って神様の世界に旅立つ。ついでに堕天使の心も揺さぶって。この物語、リリスがいなければ救いようのない話。彼女こそ主役かもしれない。
舞風さん、なかなか出てこなくてどうしたの?と思いました。「エリザベート」のルドルフのような役ですね(出番少なくても強烈)。彼女のお芝居はあまり好きじゃないのですが、(出番少なくずっと死にそう状態ですが)初めて「良かった」と思いました。

▲ケース2:恋人
<バレリーナ・イヴェット(大月)>
大部屋女優(バレリーナだけど)のなかで、チャンスを貰って出世する。大抜擢に優良なパトロンがつき、貧しい恋人を捨てて華やかな道を選ぶ。・・宝塚なので最後は貧しい恋人を選ぶのかと思ってました。そしたらパトロンと栄光の座を選んだ。ちょっとびっくり。ルシファーに栄光を得るには・・と誘惑されてましたが、それはちょっと背中を押されただけ。自分の才能と努力、そしてやっとめぐってきたチャンス。結局は自分で考えて選んだような気がしますね。多大な犠牲を払って得た栄光の座、それを奪うものがいたらやっぱり憎むでしょうね・・と、彼女の姿は昔のジュスティーヌのように思えました。
大月さんって初めて見ました。全然知らない人でしたが、雪ファンに聞くと結構有望な娘役さんだとのこと。白羽さんが戻ってきたらNo2 なのかな?ちょっと注目。

<ピアニスト・セバスチャン(音月)>
昔は栄光のピアニスト、ロシア革命で指をだめにしてアルバイトのピアノ弾きへ転落。だけど彼にはルシファが誘いを仕掛けない。なぜかというともう悟っているから。ある意味、リリスと重なる。幼馴染の恋人が彼を捨てて栄光の座を選んだときも、黙って別れてあげ、彼女の成功を祈る・・彼なら本気で祈っていそうだ。イヴェットが万一失敗して戻ってきても、変わらぬ笑顔で受け入れてあげそうな感じもする。一度絶望を乗り越えているから強いんだなあと思った。
ルシファがちょっかい出した<恋人>は脆くも崩れて別れることになってしまった・・でも二人とも幸せになりそうな予感も。
音月さん、いい味出すようになりましたね。ショー見てたら結構なスターになっててびっくり。

▲ケース3:師弟
<作曲家エドモン(壮)>
有名人の息子で、それなりの才能しかないけど作曲家をやってる人。かなり無理して頑張っていたけれど、芸術の世界では才能がないと世襲は難しい。で、ルシファの誘惑に乗って、弟子の曲を自分の曲と偽って発表。かなり自分でも苦しんでいたようだけれど・・父親や周りの期待に沿いたかったのもあるだろうし、自分が限界であることを外部にだけでも知られたくなかったのか。良心の呵責に苦しんでましたねえ。・・なんだかこの人だけがルシファの誘惑に乗って破滅してしまったように感じた。ルシファがいなければ、彼は弟子の曲を採用し、自尊心に苦しみながらも弟子のデビューを応援したような気もする。良い助言をする人がいれば、先生としてやっていけたかも知れない。
(ルシファが誘ったほかの2人=ジャンもイヴェットも、自分の意思が強かったのか、誘惑はきっかけで、選択は自分の判断に思えるのよね)。

<その弟子マルセル(彩名)>
才能ある弟子で、先生のエドモンを尊敬している。マルセルは自分の曲がちゃんと評価されたら、先生に感謝し謙虚に仕事を続けたと思う・・んだが、今度はルシファが声かけそうだな(笑)。もっとずるい人物なら、お金貰って曲を売って、有力者の家系のエドモンのゴーストライターとして稼いだと思うが、純粋だったんだね。だから「たかが1曲のために死ぬことに」なってしまった。
ルシファが堕天使(というか悪魔)らしいことをしたケースだと思う。
彩名さんっていつの間にか雪組の子になっていたのね。気づかなくてごめん。

▲触媒~傍観者
<堕天使ルシファー(朝海)>
最後の項でごめんね。でも3つのケースは人間関係で大切なものをはぐくむ関係である<親子><恋人><師弟(友情のほうがよかったかも)>を、簡単なきっかけで壊そうと思って仕掛けたと思うので、3つのケースを先に書きました。
「こんな簡単なささやきだけで関係が壊れるほど、人間とは愚かなものだ」といいたいがために、誘った。本音では「壊れてほしくない、乗り越えてほしい」と思っていた感じがしましたが(ね)。エドモンは破滅したけれど、ジャンは乗り越えた。イヴェットもどうやら超えられそう・・? ルシファとしては、実はとっても嬉しかったのだと思う。リリスに涙するほど嬉しいのだ。
「悪魔」と名乗らず「堕・天使」と名乗っているのですもの、ジャンでなくても「天使に戻りたいんじゃ?」と思える。ジャンが憎みつつ心の奥で母を慕っていたのと同じ感情を、ルシファは神に抱いていますね。すごい親近感を感じてジャンに近寄ってる。ジャンはリリスによって母との関係を好転させた。ではルシファは?・・回答はなかったです。まだまだ片思い、長い旅が続く。
ルシファ、両性具有の天使のようだった。しかし、ルシファなら過去何度も人間界に来て誘惑掛けてちょっかい出しているので、いまさらリリスであれほど感動するというのもどうかと・・そういうケースが以前になかったのか? ここはルシファではなくルシファ配下の魔天使で、魔王ルシファの命令で人間を破滅させにきたが・・という設定が良かった(と私は思う)。たしかに朝海ルシファは「堕天使」であり「魔王」ではなかったが。
最後に得意のダンスを堪能できる役で、得意の人間でないものの役で本当に良かったと思う(もっと中性的な設定のほうがさらに好みだが)。こういうのが見たかったんだよ。

<その付き人サリエル(凰希)>
ルシファの付き人(?)だが、なんとなく監視者のように見えたのは気のせいか。ルシファより冷静で冷酷な感じがするサリエル。彼は「堕・天使」ではなく「悪魔」といっても通用すると思う。人間を破滅されるだけなら、サリエル一人で来たほうが良い。まあ、それはルシファの真の目的ではないので何ですが。
凰希さん、立派に成りましたね。背も高いし、カッコいい。これから注目してみる。

あっという間に、こんな大量(笑)でもあとショーを書く。

『タランテラ』荻田浩一
なんかいつものオギーらしくないショーでした。幕開きは「オギー♪」と喜んでいたのですが、なんだか衣装やら色彩がばらばらな感じがして、いまいち。「バビロン」「パッサージュ」「ロマンチカ」なんか大好きなんですが・・オギー、中間色より原色のほうが得意?
今回、色がいまいちでした。ストーリーもよく読み取れなかった。フィナーレも変則(いえ「ミレニアム・チャレンジャー」や「On The 5th」よりましだけど)。どこで拍手入れていいかわからない。「トップの退団」という配慮がしてあったのが救い。
あと、ショーでは雪組の影のトップコンビ「未来&愛」の魅力全開!って感じですね。
驚きました・・表のトップコンビよりよく組んでない? こちらも今回で解散なので、大サービスだったのかと思いました。
ついでに、なんで次期トップが羽背負ってないの???という疑問も。オギーで期待しすぎていたのかも。まあ玉にはこういうのもありかな。次回に期待。


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アール

ご観劇ありがとうございますm(__)m
私は名古屋・大阪・札幌と全国流浪の身でありながら、宝塚を通過してしまいました。何があっても宝塚によっていた頃が昔に思えますぅ~
私は来月に星組を見ます。雪はまだ先です。
ちなみに本日星組を成瀬さんがご観劇だったと、
瞳子ちゃんファンから連絡がありました。
なるちゃんに同期の舞台の感想を聞きたいですね!
by アール (2006-10-19 22:38) 

えりあ

この作品、一見の価値ありですよ。星はショーが良かったです。
成瀬さん・・会いたいです。何か予定はないのかしら?
今日「オペラ座」見てきたのだけど、昔昔の久世さんの最後のバウで
ファントムの役をしてたのを思い出しました・・・私もまだ病気です(笑)
とうこちゃんのお披露目ドラマシティは行こうと思ってます。
by えりあ (2006-10-19 23:49) 

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