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宝塚月組「THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~」 [観劇感想(宝塚)]

宝塚月組「THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~」
2018年7月2日(火)18:30 梅田ドラマシティ 14列センター


初演は見てない。しばらく宝塚をお休みしていた時期だから。
初めて見て、植田景子先生 渾身の作品だと思った。
主役の月城さんが出ずっぱり、
劇団員が演じるフィッツジェラルドの舞台という二重構造。
ラストシーン直前までフィッツジェラルドの世界が展開し、
プロローグとエピローグだけが、劇団員TUSKISHIROになる。
そして彼が作家のごとく、フィッツジェラルドの最期を創造し演じて終わる。
舞台装置などもかなり計算された動きをしている。
なんて凝った作りなの!ものすごい脚本だなあと感動した。
景子先生、学生時代フィッツジェラルド研究してた?とか思うほど。
そして並外れた主役の比重の重さに驚き、
それを存在感をもって的確に演じた月城さんにも感動した。

楽しかった!で終わらない作品。
見終わったあと色々考えさせられる文学性の高い作品だったと思う。
月城さんは初主演の「銀二貫」も文学性が高い作品だったし、あれも大変に感動した。
文学性が高い芝居に向いている役者さんですね。芝居が深い。


201807月ラストパーティ.jpgMusical
『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』
フィッツジェラルド最後の一日
作・演出/植田 景子


というわけで、「植田景子 渾身の意欲作!」ってあおり文句をつけたいくらいだ。
初演の14年前だから書けた作品のような気がする。作者の情熱というか作品への思い入れ、熱量が感じられるのだわ。この作品を、フィッツジェラルドを愛しているのだと思う。いえフィッツジェラルドは景子先生の分身なんだ。自分自身を描いている・・と思った。
あまりに作者の愛を感じたので、演出家のコメントを読みたくなった。帰りにプログラムを買った。読むとやはり、この作品への思い入れが書いてあった。何度も再演してほしい、ブラッシュアップして「最高の」作品に仕上げたいんだろうなあって。
この作品は、フィッツジェラルド役ができる役者がいないと難しい。今回の月城さんは嵌っていたので、大変良かった。ゼルダ役の海乃さんもとても似合っていて驚いたくらい良かった。
別箱で大勢のジェンヌさんに見せ場を!という趣旨からすると、主役に比重が重すぎ、重要な登場人物も少ないので、向いてない。でも「作品の完成度」という点からみると、この作品は素晴らしい。外の舞台で本物の男性で上演しても良さそう。
景子先生の作品はラストシーンが今一つ・・というイメージがありましたが、このラストはよく考えたな~と思います。「へ?」って思うラストじゃないから。私の好みからしたら、ラストシーンまで一気にフィッツジェラルドのまま迷いなく突っ走って欲しかったかな。


TSUKISHIRO/スコット・フィッツジェラルド 月城 かなと
[1920年代のアメリカ文壇に華々しく登場した小説家]
彼がNYに出てきて、出版社との交渉を始めるところから、物語は始まる。つまりプロの作家として誕生した時から、プロの作家のまま死ぬまで。波乱万丈の作家の一生を描いている。
作家として成功し、作品はベストセラー。ナンバーワン美人を妻にして、都会でゴージャスな生活を送る・・短編でも各作品は高値で引き取られ、ベストセラーに。やがて、書きたいものと売れるものが乖離していく。美しい妻は溢れるようなお金がないと幸せにできない。妻を飾り立てるために、書きたくないものを書き、己の才能が腐って言うような危機感を持ち・・。気分を一新して南仏に渡って、書きたいものを書く生活に入る。自身はそこで達成感と満足を得るが、その間放置していた妻が病んでしまう。妻は病院へ行き、時代の激変から、自分の作品が社会に受け入れられなくなる。才能を認めていたアーネストが脚光を浴び、名作を次々に生み出す。才能への焦り。生活の資金。彼もどんどん追い詰められていく。
このあたりの描写が、脚本も役者も見事でした。
書きたいものと売れるもの。この葛藤。金のかかる家族だが、憎んだり捨てたりできない優しさ、愛。後輩に追い越され、自分が望むものを得ていく姿を見るなんて・・この焦燥感。
凄く胸に迫りました。私も書いたものを売って生きているので、かなりかなり心に迫りました(文学性がない分野なので少し違うけど、心理的にはとても共感できるものがある)
ということで、この2時間ずっと舞台の上でフィッツジェラルドになって一生を演じきった月城かなとさんに、心を引きずられ持っていかれました。「銀二貫」の時も思ったけど、月城さんの芝居はかなり雄弁で、セリフにないセリフが伝わるなあ。雪組芝居の真髄だと思ったけど、月組でもその良さは全く失われてない。
月城さんは、端正で品のある美しさを持つ方。セリフも歌も明瞭で、それでいて感情が伝わるから、役者としてとても優秀なんだと思います。無色なイメージで、役に入ると色がつく感じの役者さんだから、「宝塚スター」としてはマイナスなのかもしれないけど、私は好きなタイプです。ほんと将来に期待が高まる人だわ。読み返したら絶賛やん。日本物の心理劇「若き日の唄は忘れじ」とか見てみたい。


MITSUKI/ゼルダ・フィッツジェラルド 海乃 美月
[スコットの妻。彼の小説のヒロインのモデルとなるフラッパーガール]
頭の軽い美人で享楽的な図太い俗物を演じているけど、その実、神経が細くて繊細で、何かに縋らないと立っていることもできないほどの脆弱さを持つのがゼルダという女性。
ゼルダみたいな神経細い女は芸術家の妻は無理。本来は彼女も芸術家になるべきだと思う。
やることないから、病むの。やることがない、つまり存在意義がないと感じるから、ここにいていいのか、生きていていいのか、不安になる。享楽は不安の裏返し。
「綺麗なおバカさんでいる」と決めたというセリフがあるけど、あれは逃げ。自分で自分の立ち位置を作ることを諦めたセリフだと思った。30才までに死にたいとか。
もっと鈍感なら生きやすい。
もっと賢いなら、何事か成せる。
スコットみたいな芸術家と結婚せず、実業家とか大農園主とか医者とかと結婚していたら、ここまで病まなかったと思う。成功した政治家のトロフィーワイフなら、「パーティで彼の傍にいる」だけで存在意義が得られるので、彼女の精神にとっては一番良い選択だったかも。
と、この複雑な女性を、海乃さんは見事に演じていたので、感動。海乃さんのお芝居って、この前の「カンパニー」くらいしかちゃんと見ていなかったので、こんなにできる人だったのね!びっくりしました。綺麗だけど繊細で狂気も出せる。彼女がゼルダ役に配されたのに納得です。美人なので、とても説得力もありましたし、はまり役だと思います!


AKATSUKI/アーネスト・ヘミングウェイ 暁 千星
[ノーベル文学賞を受賞した20世紀を代表するアメリカの小説家]
スコットが才能を認め応援していた? ヘミングウェイはフィッツジェラルドとは全然作風が違い、男っぽい骨太の文学、人間性そのものを追及して抉り出しているような雰囲気。スコットの作品は華やかな世界を舞台にした深い心理劇。・・って私文学は研究してないから私が読んだ作品イメージね。
フィッツジェラルドの成功の時代である前半はほとんど出番がなく、後半、彼の世界が崩れていくときにヘミングウェイが台頭してくる・・という「アメリカ文学界の主役」入れ替わり感が激しい。(凝った脚本だ)。
脚本イメージからすると、もっと男っぽく皮肉屋で、スコットとは正反対の荒々しい男を想像する。暁さんが可愛らしいのだ。今回はかなりワイルドにしていたけれど、品があって可愛い本質が見えてしまう。もっと立ってるだけでスコットを威圧するような気迫が欲しいって思った。スコットを追い詰める役だから。暁さんもどちらかというとスコットが似合うタイプなので、難しいですね。歌も芝居もとても良くなっていました。


YUMA/マックスウェル・パーキンズ(マックス)悠真 倫
[スクリブナーズ社の編集長。スコットをデビューさせ最後まで真摯に面倒を見る。仕事に情熱を燃やす出版界の大物] スコットを見出し彼を育てた出版社冥利に尽きる人。スコットの大恩人ですね。でも彼にも家族があり、社長でもないので最後まで付き合えなかった・・彼も無念だったと思うけど、そんな限界まで行ってしまったのはスコットだから。
大変包容力のある大人の男性で、スコットを見守ってましたが、スコット以上に手のかかるゼルダと二人ともを見守るのは、普通の人には荷が重すぎる。スコットの妻が普通の女性なら、マックスがしなくてよい苦労がいっぱいあったと思う。
悠真さんに相応しい役。エキセントリックな二人が暴れまわる舞台を締めてくれた人。とても嵌った配役でした。


主要な役はここまで。ほとんどスコット、そしてゼルダがかき混ぜ、時々アーネスト。マックスが締めるって感じでしたから。


YURINO/シーラ・グレアム 憧花 ゆりの
[スコットの晩年の愛人・ハリウッドのジャーナリスト]
とてもしっかりした女性で、自立している。理知的で自己を律しているのが感じられる。スコットが安心して頼れる女性。最初からこういう女性と結婚して入れば、彼はもっと長生きし違う文学を書いていたかもしれない。でも「華麗なるギャツビー」や一連の名作は生まれなかった可能性も高いか。
愛しているけど、それすら感情を出さない抑制した思いがよく伝わってきました。


MIYAKO/ローラ・ガスリー[スコットの秘書]夏月 都
スコットの文学が好きで、的確に作品を評価できる賢い女性。人を見る目もある。スコットも彼女みたいな人を妻にしていれば・・以下同文(笑)。
少ない出番ながら、良く書き込まれた役で、それをしっかり演じてました。


HANABUSA/エドゥアール・ジョザンヌ 英 かおと
[仏海軍航空士・ゼルダの浮気相手]
ゼルダはこの人と結婚したほうが良かった。彼は深く考えないタイプで、ゼルダを不安にさせない。ほんの少しでしたが、ゼルダがここで決断していれば、スコットを振り切っていれば、病まない人生があったのかも・・と思う相手でした。


KAZAMA/公園の学生 風間 柚乃
[文学を志す大学生]Webのキャストを見て、なんとも簡単な役名だな~風間さんに?と思っていたら、とっても重要な役だった。フィッツジェラルドの文学の本質を語るのが彼。作者本人に語ってるとは思いもしなかっただろうに、的確に普遍の文学性を評価して見せた。彼のセリフによりスコットは自分の人生の意義を、夢の達成を確認できた。こう考えると、アーネストに次ぐ重要人物。


ARI/フランシス・スコット(スコッティ)菜々野 あり
[スコットとゼルダの一人娘]えらく物分かりのよい可愛いお嬢さん。両親どちらにも似てない。いや自分を律することができるところは、父親に似ているか。
可愛かったけど、最後まで制服?というのは・・ラストシーンは回想場面だっけ?


こんな感じ。スコットが超主役で、彼の物語。主役の比重が高すぎる作品。
見終わってから、文学の在り方や作家(クリエーター)の生き方、葛藤を考えた。
とても興味深い作品で、見に行ってよかった。月城さんに感謝だ。


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