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宝塚雪バウ「銀二貫~梅が枝の花かんざし」 [観劇感想(宝塚)]

宝塚雪バウ「銀二貫~梅が枝の花かんざし」
2015年11月26日(木)11時 中段センターブロック


「銀二貫」、一時期大阪の本屋では絶賛販売していた作品。
本屋大賞の大阪版のような賞をつくってその第1回受賞作だったかと。
それで私も読んだ。そしたら良い作品で、商売人のあり方に感動して、
ちょうどそのとき書いていた本のあとがきに引用したくらい。
だから、この雪バウの話を聞いたときは、とてもとても期待した。

谷先生ありがとう!!!原作とはちょっと違うところもあったけれど
おおむね原作通りであり、なにより原作の世界観を余すこと無く表現していた。
だから登場人物がイメージ通りでした。もちろん演じたジェンヌさんもすごい。
谷先生の江戸人情ものは良いなあ。泣かされたわ。

雪銀二貫.jpg

ネタばれあります。




浪華人情物語
「銀二貫~梅が枝の花かんざし~」
原作 高田郁  脚本演出 谷正純


うまい。原作もとても良いんだけど、舞台版はアレンジもうまい。
泣かせるね〜。谷先生の人情もんはいい。
そして役者の演技が良い。専科が大活躍でしっかり支えた。
その大活躍ぶりたるや、華形さん主役なん?てくらい。和助の見せ場連続。
女房役の番頭・善次郎の英真さんは、確実にヒロイン真帆より台詞が多いと思う。
専科じゃないけどほぼ専科の奏乃さんの嘉平さんも、いいね。
この物語、天涯孤独の子供だった主人公・松吉が、周囲の大人の愛情に恵まれながらも
自らたくましく成長していく物語だから、初主演の若い月城さんを取り囲む
ベテラン陣という陣容がまさにぴったり当てはまった。リアリティがあったわ。

ただね、演出はゆっくり。スピード感もないし、盛り上がりに欠ける感じもある。
たとえば1幕ラストの火事の場面だけど、あまりに平板すぎる。緊張感が薄い。
火事の書き割りの中、人々がただじっとしてるだけなんて、ちょっとなあ・・
緊迫した状況が出てないというか。人数が多いんだから、炎を表現するダンサー
作れるだろうし、それに追われて逃げ惑う人々、って構図にした方が
緊迫感・臨場感がでるのに・・・と思った。
(最近見て感動した「紅に燃ゆる〜真田幸村」の大阪城落城場面が見事でさ。
人数が少なくて予算もなさそうなのに(失礼)、CG効果も使わず凄まじい臨場感と
迫力だったのよ ⇒ご参考「紅に燃ゆる」はこちら )

一昔前の演出のような気がする。だが演技は丁寧で、脚本もいいから泣けるわ・・
良い人しかでてこないし、本当にいい話だ。商売人の基本書のような原作なので、
学生にも勧めたくらい。そのテイスト・根幹テーマをしっかり表現してくれた。


では個別に。

鶴之輔→松吉(月城かなと)
武士の子だけど、父が仇討ちにあい異郷の地で天涯孤独に。父と自分の命を買って
くれた和助に救われ商人の道を歩むことに。この松吉の成長物語が主軸です。
松吉自身も素直で努力家の良い子ですが、周りの人々が良い人ばかり。
和助のさりげない優しさ、善次郎の厳しさの中の思い、梅吉との友情。
井川屋の外でも、嘉平の好意、真帆の同情⇒愛情とかなり恵まれている。
原作でも困難が波のように次から次へと押し寄せてくる松吉ですが、
舞台でも、困難が連続して押し寄せますが、全く不幸には見えません。
困難に立ち向かい、全霊を尽くして乗り越えそれを自らの糧として成長していく。
周囲の人々の寄せる思い。他者を思いやるその心根に、泣かされます。
松吉の成長とともに、周囲の人々の思いやる心に泣かされる物語でした。
だから松吉が、周囲の好意を受けるに相応しい良い人間性を持つ男に見え、
とてもとても素直に物語を楽しむことができました。月城さん、うまい!

初々しく戸惑う少年から、新人らしからぬ落ち着きで周囲の愛情をきちんと
受け止めながら成長していく立派な商人を演じてくれました。
歌も良くて、難しい曲も揺るがず歌って聞かせてくれました。今回のバウ、
ソロのある人みんな歌がよかったですね。ストレスが無く浸れていいわ。
本当に美形。好みのタイプ!青天姿も美しく、着流しが似合って本当に美しい男役です。
今後、大劇場での活躍が期待されますね!!活躍させて上げてください!


真帆→おてつ(有沙瞳)
小料理屋 真帆家の娘。ちょっときゃんきゃんしすぎな印象も。
初登場のときの真帆の年齢はいくつ?幼児?ってくらい幼すぎでは・・。
父の周りをぴょんぴょんはねている姿は、5歳くらい・・?
もうちょっと情緒がないと、既に少年だった松吉がロリコンに見えるぞ(笑)。
ほぼ動物的な直感だけで生きている幼女に見えました。有沙さんのイメージを
一新するという意味では大成功で、すごい演技力あるなあと思いましたが、
私はこういうヒロインより、大人のヒロインができる娘役が好きなので
次回はもっとしっとりしたヒロインが見たいです(真帆でももっとできたと思うが)。

火事の後、父を亡くし、同じ場所で娘を亡くした女性お広の娘、てつとして
生きることに。原作では火傷は顔半分ですが、さすがは宝塚、首のあたりに少し。。
に変更されていました。正直、あの程度なら気にしなくても・・って程度です。
父とてつ(本物)が目の前で死んだこと、そして自身の火傷のせいで、おてつは
真帆よりはかなり暗い。(まあ真帆が能天気・・・いえ天真爛漫すぎたけど)
おてつの芝居は良いと思う。だから差を出すためかもしれないけど、真帆はやりすぎ
じゃないかと思うの。有沙さんはもっと芝居が巧かったと思うので、ここまで
真帆を作りすぎなくてもいいよ〜と思った。こんなキンキン声は苦手やわ。
歌は奇麗に歌ってくれて、そこはいいけど、少し高音すぎない?という気も。


和助(華形ひかる)
寒天問屋 井川屋の主人。この人のほうが松吉より台詞が多いのでは?影の主役と
いえるほどの出番と役割。大事なことは全部この人がらみというほどの最重要人物。
本当に後半は台詞全部に泣かされましたわ>和助さん。
商人の鑑のような人物。さりげない気配りと優しさに惚れますわ。
この方、独身なんですよね。原作では、最後(銀二貫の寄進完了時)にはかなり高齢で、
店は松吉夫婦に譲ったんです。・・・ええ買い物しはりましたわ。ほんま。
松吉に対する厳しさと、こっそり示す優しさがあまりに素敵で、また商人としての信念や
金の使い方の見事さに惚れ惚れしました。

華形さんが芝居が巧いのは知ってましたが、英真さんより高齢の役を違和感無く・・。
本当に見事な専科さんです。歌も、昔は「・・・」ということが多かったのですが、
全然危惧せず聞けるし、専科になってなお向上されているのですね。感動しました。


善次郎(英真なおき)
井川屋の番頭。和助の女房役、和助が影の主役なら影のヒロインといっていいかと(笑)
和助の心の声を、和助のもうひとつの気持ちを代弁する存在。だから松吉に対しては、
嫌みを言ったりいらだちをぶつけたりすることもある。だが性悪ではない。
彼の示す厳しさには、理不尽なところは無い。商人として厳しく鍛えてくれているだけ。
そう思えるまっすぐな人物でした。さすが和助の右腕。
観客は彼の台詞を聞いて、松吉を取り巻く状況の厳しさを知る。
松吉のおかれた状況を、井川屋の苦境を知ることができるんですね。
さすがは英真さん、ええ演技でした。


梅吉(久城あす)
井川屋の丁稚。松吉の先輩にあたりますが、天涯孤独の新参者、しかも武士。
店の主人が跡継ぎにするかもしれないような優秀な松吉に対して、嫉妬もせず、
意地悪もせず、逆に媚びたりへつらったりもせず。同じ立ち場の丁稚として、
面倒見のよい明るく優しい・・友人として、対応しました。
彼の心根もまたまっすぐで正直だからでしょう。
だから山城屋のお嬢さんが惚れ、それを知った両親が婿養子に望むのも納得。
原料調達から、技術者と一緒になって新製品の企画開発までこなす松吉に対して、
店のことや営業販売に優れた能力を発揮しているよう。いいコンビでした。
こういう丁稚たちをみるだけで、店の雰囲気がわかるように思える。
井川屋さんの店のポリシーや旦那様の人柄が反映したような、ええ店ですわ。

久城さんの美声は少し未涼さんの声に似ている・・と私は思っているので、
今回ソロがたくさんあって本当に嬉しかった。本公演でもばしばし歌ってほしい人。
梅吉役ではなく、劇中劇での太夫の声もまた素晴らしかった。本当にいい歌声。
お顔もすっきりと涼やかで、好み。期待してます。もっと出番と活躍を>本公演。


ここまでが、私の考える主要人物。

<井川屋の人々>
亀吉(真篠まから)
井川屋の丁稚。技術開発の松吉に営業販売の梅吉が居て、じゃあ亀吉は?というと
これは明るいムードメーカーというか、体使って現場の諸事をこなす係というか。
それでいて優秀な二人に嫉妬したり意地悪したり、不貞腐れたりもせず。
この店の丁稚は役割分担ができてていいね。お里とふたり、頭使わない係(失礼)
で、この店の和み的存在なのかも知れないなあと思いました。


定七(真地佑果)
井川屋の手代さん。そういう意味では際立った役割が無かった人かなあ。
だから辞めたんや・・とそう思えた。会社が危ないときは経理から辞める・・と
良く言われますが、その通り行動した人。数字ばかり見ていて会社の底力を見誤った?
純粋に店を愛し、旦那を慕う他の使用人と違い、冷静に就職先として判断をして
居るような感じでした。そういう存在も必要ですよね。


お里(愛すみれ)
井川屋の女衆。亀吉と一緒にバックヤードを支える人、かな。
お店の経営やらは、旦那様と番頭さん、そして松吉と梅吉でなんとかなってる。
お里と亀吉は、考えることはあまりせず、彼らを信じて毎日の生活が滞り無く
過ごせるように整える・・そんな役割に見えました。
愛さん、こういうどっしり頼れる女衆の役が似合います。
劇中劇での女太夫はさすがの美声でした。


<町の人々>
喜六(煌羽レオ)
三十石船の船頭。情報屋?いつも情報を持って井川屋さんに飛び込んでくる人(笑)
結構イナセなお兄さんで、井川屋さんが好きなんだなあ〜と思える善意の人。
群衆場面ではセンターで踊ってて、粋でかっこいい。でも歌は〜踊りのが良いです。


お市(彩みちる)
山城屋の娘。派手な着物だけど、意外と可愛い。梅吉とのほのかな恋が可愛いね。
原作には無い役で、梅吉のために相手ができたんですね。良かったねえ梅吉さん。
原作では、山城屋の奥さんがやっていたことを担当していた。
舞台では、お店のお嬢さんなのに他の店の丁稚を好きになり、それを両親が認めて
婿にもらってくれるという大変幸せな人。梅吉はそれに値する人物だと思うけど、
身分に惑わされずに人物をみることができ、人情も篤いよいお嬢さんでした。
今回はじめて、彩さんを認識した。次世代娘役ですね。

山城屋(和城るな)と妻のお絹(妃桜ほのり)
お市の両親、良い人なんですよね。今回出てこなかったけど、原作では後半結構、
松吉の力になる。婿入りした梅吉ももちろん。出番は少なかったけど、彼らの娘が
良く出てきて、その娘の人柄から両親の人柄も推測できる、良いご夫妻でした。


お広(桃花ひな)
団子屋のおかみ。おてつの母。省略されてたけど、火事の場面で嘉平と4人の修羅場が
すごかったのだ。父を亡くした娘と娘を亡くした母で、支えあって生きてきた。
最後に「おてつ」から真帆を開放した。本当に娘を、真帆を愛していたんだなあと
その思いやりに涙しました。桃花さん、こんなしっとりした訳有りの大人の女性を
演じられるんですね。感動です。あのピノコちゃんが・・!と。演技力ある方です。
それから劇中劇のお初人形、素晴らしく美しかった。本領の美貌光線発揮ですね。
桃花さん、豪華な着物姿で踊るときが、最高に美しいと思います。


嘉平(奏乃はると)
真帆の父、小料理屋 真帆屋の主人で名料理人。省略されてたけど、彼が最初に勤めて
いた名門料亭での話のときの男気、料理に対する信念なんかも凄いのです。
また省略されてたけど、火事のときの男気も。ええ男やねん。
松吉に、「男とは」の生き様を見せ、ある意味父親のような存在でした。
もう一つ、松吉に対しては、彼の扱う商品である「寒天」の持つ良さや可能性を
教えてくれた商売上の大恩人。この人との出会いが無ければ、松吉はそこまで
寒天と向き合え、寒天を愛したかどうか・・・井川屋にとっても恩人でしょう。
一人娘を残し、やりたいこと(料理)を残して無念のうちに死んだ彼の遺志は、
料理(寒天)も一人娘も、すべて松吉が継いでくれました。良かったですね、嘉平さん。

奏乃さん、出番少ない・・でも少ない出番で強烈に印象に残る仕事をされました。
最初に話を聞いたとき(当然専科さんの出番も、出演者振り分けも知らないとき)
「和助さんが奏乃さんならいいなあ」と思ったくらいですが(和助役も見たいですが)
嘉平さんも良かったです。ソロもあったし!奏乃さんもいい声なんですよね〜♩



<寒天場>
半兵衛(香稜しずる)
腕のいい寒天職人。井川屋の救世主となる。ちょっと説明が入ってましたが、
京都の寒天店の2代目とのやっかいな(現実にはよくある)争いなどあり、
そこにも松吉が入ってよい方向へと導く手助けをする。それもこれも、
半兵衛の寒天への愛があるから。寒天愛が半端ない人。日本人の「ものづくり」に
対する情熱を背中で見せてくれた人。松吉は本当に良い人材に巡り会えてる。
いや松吉が良い子だからこういう人に可愛がられるんですかね。

おたき(杏野このみ)
寒天場のお姉さん。そういえば作中おたきさんだけが「松吉がいい男だ」と
口に出して言いました。他は誰も口にしなかった。だけど凄く感じた。凄いな。



曽根崎心中の場面
太夫(男)久城あす、太夫(女)愛すみれ、人形お初 桃花ひな、人形 徳兵衛 月城
すごい適材適所で見ごたえあり。黒子の4人が本当の人形遣いに見える。
いや〜見事なコンビネーション。こういう適材適所の場面は、(物語進行上)全然
関係ないのに長いが、気にならない。


谷先生ならではの若手抜擢場面、市井の人々
大根屋(眞ノ宮るい)・・元気いいねえ。時ソバみたいな下りに笑ったわ。
子守少女(月華雪乃)・・凄く声が良くてびっくり。これから期待。
おでん屋(諏訪さき)・・おでんと寒天の戦いって・・!?と思った次第(笑)

町娘たちがちょっとチャキチャキの現代っ子(江戸っ子?)すぎるように感じ、
もう少し大阪商家の娘さんらしいはんなりした雰囲気が欲しかったなあと思います。


雪組は日本物が巧いという定評があるが、本当に巧い。
専科から2人特別出演があったけど、それでも周りを固める中堅組子が
いい芝居をする。時代的には『心中・恋の大和路』と同じかと思うし
似たような場面もあったけど(同じ谷先生だし)、あのとき真ん中を占めた方々が
皆退団されたり、今回居なかったりしたのに、やはりあのクオリティに近いものを
たたき出しているところが凄いと思いました。あれトップコンビと3番手が出てたのよな。
泣きました。ほんま、泣けました。これ再演希望。このキャストで。
東京で再演するなら行く。行きまっせ。






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