ミュージカル
『ベルリン、わが愛』作・演出/原田 諒
原田作品は、主人公が圧倒的な比重を占める。8割くらい?主人公の恋愛が中心になるときは、相手役のヒロインも比例して高い比重で書き込まれることもある(今回はヒロインの比重も軽い)。でもそれはあくまで「彼に対する彼女」という側面でしか語られない。彼がいないときの彼女のことは全く情報なし・・・という感じ。同様に、彼の親友も、敵も、誰も深く描かれない。私は原田作品を見るときはいつもハードボイルドというか、主人公の独白を聞いているような物語形式だなあ~と思う。演出も、割と平坦というか単調で暗め。人数も少なめ。原田作品は正塚作品と同じ系統だと思う(正塚先生の方がずっとずっとロマンチストだけどね)。小池作品なんて、どうでもいいようなエピソードでも、いやなんのエピソードも無くても、盛大に盛り上がる。それは演出が凄いから。なんか気分が高揚してしまう。そういう演出効果を使わず、淡々と進めていくのが、正塚―原田系統の作品。。。と私は思ってる。
で、本作はそういう作風なのに、今回は主役すら書き込みが少ないように感じる。ナチスドイツの支配するベルリンでの言論統制、映画という世界で思想が弾圧され、それに立ち向かう主人公・・すごくシリアスでドラマチックなはずなのに、なぜ青春熱血物語のような明るい印象なのだろう。紅さんの人柄? ナチスの弾圧より、冒頭の「会社が赤字!!!」の方が重要なイメージで(笑)。主人公テオの最大の敵はナチスの思想弾圧より名門企業の赤字のように感じたの。
会社からは戦力外だと思われていた人々が、みんなで力を併せて新しいことをはじめ、それが成功しヒットして会社から認められる!というのが最大の山場に見えてしまった。ついでにその中で抜擢した素人ヒロインが実は女優として素晴らしく開花し、新米監督とカップル!というのも、なんだか青春映画っぽくて良い。映画を手伝うシナリオライターは長年の親友で、映画会社の大俳優は最初は「そんな映画に出られるか」と拒絶したものを、最後は彼を認めて出演してくれる・・。そう、やっぱり書いていても、テオが成長する青春物なんですよね。昭和初期の映画村が舞台でもよいくらい。いや大学生の映画研究会のノリでもいい。高校生の部活でもいい、廃部寸前に追い込まれた名門吹奏楽部の話とかでもいいノリ。そのくらい明るく軽い。だからせっかくのナチスの存在が効いてない。凪七さんが頑張っていたけど、ただの映画好きの政府役人にしかみえず。凪七さんの演技がどうのではなく、彼の他の面を見せるエピソード(テオに関わる以外のナチスの精鋭人物の部分)が全く書き込まれていないからだと思う。彼、何かナチスらしい非情なことしたっけ?弾圧っぽいのはラストシーンだけ、しかも逃げられてるし。
シナリオを書いた友人は、絵本作家なのにシナリオライターとして成功し、また恋人と愛を成就させる幸せエピソードしかない。主人公テオに対し、インパクトのある影響を与えてないような気がする・・・。「頼りになる仲間」代表なのか。仲間には、映画会社のプロデューサーやカメラマンなどもいたけど。
結局、エピソードのひとつひとつに重さが無くて。全部軽い。紅さんも軽やかな芸風だから、余計に明るい青春物語に見えるのかも。こういう芸風の主人公で重い話をするなら、彼をとりまく多くの人の、彼の知らない側面エピソードを重ねる方式の方がいいと思うなあ~。回りはどっぷり暗くて救いがなく、でも主人公の明るさが唯一希望の光!みたいな感じ。
ま、原田先生が重いシリアス物語を書いたのではないなら、私の感想は的外れですね。
いつものことですが、印象に残った方を書きます。
テオ・ヴェーグマン(紅 ゆずる)【UFAで助監督をつとめる青年。のちに映画監督となり、トーキー映画の製作に取り組む】
名門映画会社の助監督。ヨーロッパで初めてトーキー映画、しかも恋愛娯楽映画を撮影し大ヒットさせ、会社の赤字を解消し、「監督」として会社に認められる。抜擢した清純派女優と恋仲になり、彼女と一緒に弾圧のベルリンを離れ自由のハリウッドへ旅立つ。
やっぱり彼の成長物語。若いって良いねえ~って思える若さ。この設定ならいくらでもシリアスに暗くできるけど、そこは紅さんの持ち味か軽く明るく仕上げてました。私はこの設定で、同じ設定だった「凱旋門」を思い出したわ。あれは重厚でシリアスで救いのない暗いお話しでした(好きで何度も見ましたけどね)。ナチス親衛隊が登場した時の重苦しさ、弾圧ってこれか・・というほど客席に圧力がかかったのを覚えている。だが、この「ベルリン・・」では、ナチス親衛隊が出てきても、重圧は感じなかった。重くもなく、「軍服カッコいい!」って感じで、客席にも、テオ達にも圧力を感じなかったの。。(私は感じなかっただけなので、圧迫感感じた方、ごめんね。私も年だし感性鈍くなってるかも知れないしなあ)
テオは、弾圧から逃れるため断腸の想いでベルリンを離れるのではなく、明るい未来のために新天地ハリウッドを目指したように感じた。ナチスの件が無くても、そのうち「ハリウッドで勉強したい」って出かけたような気がする。
全編に流れる明るい希望、爽やか青春物語の雰囲気。それは本作で一番書き込まれているテオが発していると思う。紅さんは熱血演技のところはよく分かるけど、もうちょっとシリアスなお芝居で見たみたいかな~と思うところもあり。あとちょっと台詞が聞き取りにくかった、B席だったから。 熱血以外のところは割と平坦に感じたので、シリアスかどうかB席の私に受け取れなかったのかも知れない。
実在の人物を使っているのに、あの時代の重苦しい閉塞感を出さないというのは、逆に言うと凄いことかもしれない。とりあえず、重苦しい暗い話はあまり歌劇では見たくないので、それはよかった。
ジル・クライン(綺咲 愛里) 【ネルゾン劇場のレビュー・ガール。テオの映画に出演することとなる】
レビューガールのその他大勢で踊っていたところ、アグレッシブな友人に誘われ、一緒に映画に出ることになる。自信の無さが幸いし、他人の助言を素直に受け入れる性格で、大女優として認められる。そして成功しても謙虚で、自分を見出して育ててくれた新米監督テオを敬愛している。成功したとたんもっと有力者に乗り換えるなんてことはしない。ユダヤ人ということが暴露され、テオと一緒に亡命する・・・あれ、彼女には家族はいなかったのだろうか?と疑問。いやあのラストシーンの雰囲気からすると、「私は女優で目立つから」と逃亡した感じで、家族にまで被害が及ぶとは、誰も考えて無さそうだ。彼女はユダヤ人ですが、悲壮感が全然ない(これも青春物語の要因か)。周りにもない。逃亡というより、監督と一緒に映画の本場で学びたい、という雰囲気の方が勝っていたかな。
美人です。歌は普通ですが、とても可愛らしい。清楚な美人で、これはオジサマにモテるだろうなあ~と思う。そういう役どころがぴったりでした。
エーリッヒ・ケストナー(礼 真琴)【テオの友人の絵本作家】 絵本作家なのに、テオにシナリオを書かされる羽目に。畑違いだろうに、脚本料も安くたたかれたんじゃないだろうか・・と余計な心配もしてしまう。それでもエーリッヒなら「テオのためなら」と気にしないだろうけど。
テオの情熱に引きずられ、会社の旧弊と戦い頑張って作品を作っていく仲間たち!の筆頭。
大変熱心に書いてましたし、友人や恋人への態度も誠実で、とても好青年。頼りになる親友という役どころ。情熱だけで突き進むテオを支えて、周囲を取り仕切ってあげたのは実はエーリッヒ?と思えるくらいの冷静さも感じられる。
礼さんを見たくて行ったのですが、あまり出番も役割もなく・・原田作品では主人公以外はそういう扱いでしたな~と見てから思い出しました。ちょっとかなり残念。まあ恋人を思う歌は聞けたので良かった。せっかく2番手なら、今回は悪役(がっちがちのナチス将校とか)なんてのも見たかったな。礼さんって数年前の悠浦さん(OSKの人だけど)によく似てるんですよね。悠浦さんも「鬼ノ城」で完璧な悪役を演じて別な一面を見られたので、礼さんにも完璧に冷酷な悪役をしてみて欲しいのでした。ただの私のわがまま。
ルイーゼロッテ(有沙 瞳 )【カフェ・フリードリヒスホーフの女給。エーリッヒの恋人】
エーリッヒとはお似合いの優しい思いやりのある女性。今回役割はほとんど「恋人」だけ。テオとジル、エーリッヒとルイーゼロッテという対比もない。普通にエーリッヒの箔付け?に創られたような役割。どちらかというと、この二人と、ライマンとカフェの女将との対比が見えたくらい。別れてしまったカップルと上手くいったカップルと・・で。8割を占める主人公と絡んでないので、ルイーゼロッテの役割も大変少ない。
有紗さん、芝居上手いのにもったいない。可愛いし歌えるから、一曲くらい歌ってほしかったなあ。
ヨーゼフ・ゲッベルス(凪七 瑠海)【政治家。ナチス宣伝全国指導者(のちに宣伝大臣)】
最初のプレミアから映画関係者のところに座っていて、映画見に来て、自宅にアメリカ映画のコレクションもあるくらいの映画好き。実はかなりロマンチスト、でも妻は全く理解してくれない。妻と正反対の清純なかわいい女優に惚れ込んで、権力を使って迫るという最低の迫り方をして振られる(当然)。なんか可哀想・・。不器用な男だよね。
ということで、恋に生き方に不器用な男として描かれている。全然冷酷に見えないし、作中ほとんど非情な行動してないし、厳しい弾圧なんてしてない。最後の行動だって、弾圧というより、恋敵への嫌がらせというか、そのレベルに見えてしまうの(それまでのストーリー展開が!)だから重苦しさを全然感じさせず、「この人もイイ男じゃないの、孤独な人なの。そんなに冷たくしないであげて」と言いたくなってしまうのだ。
権力者の冷酷とか、弾圧とか、圧迫とか、凪七さんにはそういう雰囲気もなく、ナチスといえど「仕方なく」で、元々ドイツ名門貴族出身のドイツ軍人なんだろうなあ~と思う。育ちの良さとか教養がにじみ出ているような紳士でした。(ナチの中心人物がこれだから、ますますナチスの非情さが出ないと言えるかもしれない)。実在のナチス宣伝大臣を使うほどの役割が描かれてないし・・この役は、「資金を引き揚げようとしている冷徹な銀行家」でいいんじゃない?(凪七さんの雰囲気だとこっちが合いそう)と思いました。
レーニ・リーフェンシュタール(音波 みのり)【ネルゾン劇場でレビューに出演。テオが監督をつとめる映画のヒロインとして出演する】
目立つ女優、自分の人生をしっかり考え、自信もあり攻めの姿勢を貫く強い女。そして本作では彼女こそヒロイン、テオ以外では、話は彼女で動いていくのだから。テオに次ぐ大きな役だと感じました。ちょっと出すぎな感じもしますが、あの積極性は今後の過酷な時代を泳ぎわたっていくには必要だなあ、と思える。
素晴らしい典型的な悪女で、ハーレクイン・ロマンスに出てくる「ライバル」そのままでした。ただ、原田先生へは、「人物造詣が単純すぎないですか?」と思わないでもない。大人しく素直な清純可憐ヒロインと、押しのけ告げ口陥れのいじわる美人ライバルなんてね。昔の少女漫画そのものだわ(笑)
ロルフ・シェレンベルク(瀬央 ゆりあ )【若手俳優】歌は良いのにサイレント映画では使ってもらえない売れない俳優。飲んだくれてクダを巻いていたところ、トーキー映画を撮影するため俳優を探していたテオと偶然出会い、主役に!。。。テオ結構いい加減。全部その辺の人使ってないか?低予算って言われてたしな(笑)
色々な場面で、結構目立ってました。ロルフも「テオの仲間たち」の一人ですね。
ヴィクトール・ライマン(天寿 光希) 【サイレント映画のベテラン俳優】ものすごく良い役だったのがこの方。名門映画会社を代表するベテラン俳優。最初はトーキー映画と素人監督を罵倒するが、やがて時代の流れを感じ、また彼らの情熱を感じ、映画人としての血が騒ぎ、テオ達に協力する。この人は、主人公ではないのに、珍しく過去エピソードが書き込まれていた。カフェの女将と語る若いころの物語。ほんの少しなんだけど、老いたベテラン映画人と若い熱血映画人へ語られるメッセージ。とてもよいエピソードだ。だけど、それがあるがために、余計に青春物語になったのだけどね。(原田先生が青春物語として描いたなら、必須のエピソードだもんね)
渋いベテラン俳優。いいねえ。私はもっと声が低くて渋いダンディ叔父様の方が好みだわ、お顔はとっても素敵。もう少しだけダンディな大人の男の背中を見せて欲しいところ。そう、哀愁が少し足りないの!・・・私、背中の哀愁大好きだから(欲求が大きくてごめんなさい)
ゲルダ(万里 柚美)【カフェ・フリードリヒスホーフの女将】 このカフェの娘だったのかしらん。若いころから映画人が出入りするカフェで、いろんな若者を励ましてきたんでしょうね。その中に売れてないライマンもいた。でも売れるようになると来なくなり・・・ここも語られなかったエピエピソードがありそうだ(ワクワク)。二人の間にそれが感じられて、とてもドキドキした。おかみさんの背中には哀愁が感じられるんだもの!(ライマン頑張って!)
美人女将とイケメン俳優の若いころを思い、しばし胸が熱くなるのでした。
ジョセフィン・ベイカー(夏樹 れい)【「褐色の女王」「黒いヴィーナス」と謳われたレビュー・スター】
ほんの一場面の出番ですが、大変華やかに艶やかで、印象的な女性でした。
物語の必然性はあまりない・・いやレーエが盗み聞きをして自分を売り込む場面のために出てきたのかと思うくらいだから、盛大な前振りエピソード? もしかしたら人種差別を通して時代背景を入れたかったのかもしれない。いや華やかなレビューシーンを入れるために必須だったのかな。
記憶に残ったのはこのくらい。後は覚えられなかった。まあ原田作品では主人公さえ見ていれば話は分かるから。
青春ドラマとしてみれば、イイ感じ。ナチスの登場は必要ないかな~サイレントからトーキーへの移り変わりを描いたドラマでいいのにね。(「雨に唄えば」になってしまうな;笑)
タカラヅカレビュー90周年
『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』作・演出/酒井 澄夫
衣装のセンスが私と合わな過ぎて。色もデザインも。特に幕開きから、色彩とデザインに驚きまして、なんだか・・・と思っているうちに始まった感じです。
パリの曲が多くて、どこかで聞いたような歌、見たような場面。そういう場面の連続。衣装だけが、なんだか変わっていて・・・私の好みに合わない。
星組はあまり見ないし、ショーはめまぐるしく人が出てくるので、ほとんどわからないまま終わっていまいました。あー勿体ない。
観光客が出てきてお笑い劇中劇とか、主役が捨てられる行かれる三角関係とか、何なの?って気分。いや私が好みじゃないだけで、好みの方にはスミマセンです。もう衣装も色彩も中身も全編「何なのこれ??なんでこーなるの??」な印象でした・・・
ま、でも良い印象に残ったのは。
礼真琴さん。歌が上手いのは分かってたけど、「悠浦さんに似てる!!」と今回本気で思いました。もともと、丸いほっぺと笑顔、美しい歌声が似ているな~と思っていたのですが、今回若い格好でソロを歌ってらっしゃるのを見て、確信しました。OSKの悠浦あやとさんの3年ほど前の姿だ、これ。悠浦さんがもう少し若くて丸くて、高めで透明感と伸びのあるつややかな歌声だった時代の(いまは大人になって声も変わったので、少し違う)。いや懐かしい。やっぱり礼さんにも「完璧な悪役、黒幕」を演じてほしいわあ!見てみたい。絶対似合う、あの歌と演技力ならできる!わ~見たい。としつこく思いました。劇団違いの話をすみません。
紅ゆずるさんの「夜霧のモンマルトル」。渋くてかっこいい!これも思い出したのですが、昔昔、雪組でこの歌を安蘭けいさんが歌い、成瀬こうきさんが踊っていた。あれは何のショーだったっけ?同じ衣装とセット(まあこの曲につきものですが)で懐かしかった。それから「セ・マニフィーク」こういう勢いで歌う曲って、凄く似合う!!!紅さんの歌は・・・・・だと思っていたのですが、今回のこれはとてもとても素敵でした!ショースターなんですね♪
凪七瑠海さん。フィナーレの「華夢幻」すごく良かった。この方は歌はとても良いのに、声が少々残念な方だと思っていたのですが、これは本当に良かった。3組のデュエットダンスの横で朗々と歌い上げる。良い役ですね~
綺咲さんは可愛い。本当に可愛い。可愛いは正義だ!と言われて納得する。
他で一番目立っていたのが、
七海さんかな?
まったくわからなくてごめんなさい。綺麗な人が多いね~と思いました。区別つかんかったけど。
ラインダンスの衣装も、色彩が・・・私の感性とは違う色合わせでした。デザインは可愛いのに。
大階段はオーソドックスで良かったような記憶(すでに曖昧)
フィナーレがまたプロローグの衣装だったので、まあなんだな。
エトワールは大変な美声でした。これぞエトワールよね!そこは満足。
誰が誰かよくわからないうえ、記憶力をお芝居で使い果たすので、ショーの感想はいつも適当になってしまう。星ファンの方には申し訳ない感想です。
<参考ページ>
星ドラマシティ「阿弖流為」の感想は
こちらOSK「鬼ノ城」初日 の感想は
こちらOSK「鬼ノ城」千秋楽 の感想は
こちら