宝塚月組バウ「アルカディア」2017年12月2日(土)14:30 14列下手
月組の別箱は絶対に行きたい。チケットが取れる限り行く。
暁さんは最近好きだし、何より「演出家デビュー作」は絶対に見たい。
→と思ってたら、デビューじゃなかった!!ご指摘いただきデビュー2作目・・
デビュー作見逃してたんだよ私・・ショック。
(とはいえ、私はデビューと思ったので)ということで結構期待値高くいきました。
良かったよ~往年の正塚先生を思い出す台詞と演出。テーマ選び。
つい目が釘付けとなるソロダンス。ダンスシーンのダンスの見ごたえ。
宛書の妙もあるけど、暁さんと美園さんの芝居も良くて嵌ってる。
若い二人を支える周囲の安定した演技力。さすが月組。
なかなかの収穫。行って良かった!!
ネタバレあります。邪推(番外妄想?)多いです。
『Arkadia -アルカディア-』
作・演出/樫畑 亜依子
ダンスがメインという解説でしたが、確かに暁さんのダンス場面が秀逸。けれどもダンスナンバーが豊富なショー仕立てではなく、どちらかというまでもなく「ドラマ」、それも骨太のドラマでした。台詞の書き方、人物の動き方話し方の演出、小物の使い方、セットの動かし方など、往年の正塚先生のバウを思い起こさせる作り。樫畑先生は正塚先生のファンでした?と聞いてみたい。
あと女性作家らしく「一輪の白いダリアの花」がとても効果的に使われていた。花自体もとても綺麗な花だったわ~印象的。
そうドラマなんですよ~切ないロマンチックなドラマ。恋愛ドラマではなく、人間ドラマ。自分の居場所を探す主人公と絡まる人間関係、登場人物それぞれにドラマがある。「さすがデビュー作、構想10年?」というほどの詰め込んだ設定。たぶん2時間では設定を全部語れなかったに違いない。2幕なんてルネの台詞に、「時間の関係でいろいろエピソード省略しました、設定これです!」感が盛大に漂っていたもの。ミネットの両親メインのスピンオフで2時間1作できそうだ(ミネットの母登場のあたり、大変駆け足であった。これはミネット編だからしかたない。エミール編に期待だ;笑)。昔の荻田先生のように2部構成か?って思った。
背景のセットは、小池作品風によく考えられていてお洒落。「マインドトラベラー」という迷作を思い起こさせる作り。1幕ラストの盛り上げ方も宝塚のオーソドックスな感じ(小池先生風)で盛り上がる。だが2幕に入るとハードボイルド炸裂。何かに渇え、自分探しの主人公、度量の大きなヒロイン。椅子に座ったままの会話、ウェイトレスや通行人。正面(客席)ではなく、会話する相手の顔をみての演技。「ああ」「うん」という台詞。その台詞と間に込められた「聞こえない会話」。伏せた視線、クッションやバッグ、植木鉢といった日常的な小道具。クライマックスのシリアス場面では、怒鳴りあいの激しい台詞が応酬されるのに、静寂が支配する空間。
・・これこれ、正塚ワールドと呼ばれていたもの、今までこのハードボイルドな手法を使う演出家が、正塚先生しかいなかったので、そう呼ばれていた(と思う)。でも新たに誕生したみたいですね~なんて若いころは当時の正塚ワールドが大好きだったので、嬉しく思いました。でも怒鳴りあいを聞くのはちょっと厳しいかな、私も年を取ったからねえ。(正塚先生もお年を召されたので、往年の勢いがなくなってるし・・以前は大人気演出家だったのに、最近はあまり・・・ですもん)、この世界観を描ける若い演出家の出現は大変期待できますわ!
あと宛書の妙。今回のミネット暁さん、ダリア美園さんは、とってもぴったり。特に暁さんはさすが主役、さすがの宛書というほど、嵌っていました。「ミネット」と呼ばれ、黒猫と言われてましたが、本当に黒猫に見えたほど。雨の中、道端でぐったりしているのを拾って帰り、乾かして温めてベッドで寝かせて寝顔を見て居たい、そんな「拾った子猫状態」。それが人間だけどぴったりはまり、ダリアが彼を拾って保護する様子が納得できるほど。いや凄いね。その彼の生い立ちと葛藤。少々無理な設定もあったにしろ、言わんとすることは分かる。彼の人生に欠けているもの、彼が渇望しているもの。
暁さんのお芝居は、だんだんうまくなっていると思う(最初に見たのがひどすぎたのかもしれないけど、着実に成長してらっしゃるので、見ていると楽しい)。今回は宛書だったけど、これは今現在の暁千星にしかできない役、あと数年たってから同じ暁さんでも再演できない。他の役者でも無理ってほどの宛書。と感じました。
ストーリーでいえば、佐伯かよのさんの短編漫画にありそう。ダリアがもっと年上(一回りくらい)のバリバリキャリアウーマンで、というストーリーを読んだような気がする。今回のダリアは年上とはいえたった3歳、まだ若くて可愛らしい。だから「ミネットの母」的役割を免れている。ミネットとも似合いで、お互いの存在で欠落を埋められたようなハッピーエンド感が漂う。最後は明るい終わりがいいですね~楽しい気分で帰れるのが好き。
ミネット (暁 千星)
子猫という呼び名で呼ばれてる、ダリアが拾った少年、いえ青年?18歳らしいので、やっぱり少年。年齢のわりに屈折してるし大人びたところもある。でも子供っぽい、いや猫っぽいところのある少年。だから拾って可愛いがりたくなるのですね。こういう子を拾うのは、やはり大人で少し陰のある孤独な女性が似合う。でもダリアはまだ少女の雰囲気を残し、子供みたいに天真爛漫で陰の無いところが、逆に隠れた孤独を感じさせる。そういうところが屈折したミネットと惹きあったのかな。
彼の半生はちょっと無理無理すぎるけど、言いたいことは分かるので納得。本来なら、ミネットが24~25歳謎の青年設定、ダリアが35歳会社経営の不倫経験ありのキャリアウーマン設定くらいだとぴったりくるね、レディコミなら(笑) ←この年齢設定なら、ミネットの前歴設定に無理が無いと思う。5歳くらいずつ足してあげればよいイメージ。
父への思慕と母への葛藤、唐突に出てきた妹への想いとか、実の父への複雑な心理とか、後半が盛り込みすぎでした。これをいきなり突き付けられ表現しなければならなかった暁さんは大変だったと思います。先にエミール編を見ておくべき!っていう気分でしたもの。エミール編は、ルネとエミールとジャン=ポール、ロズモンドの若いころの話で、避暑地の夏のお話し。適当に想像して補いましたけど。絶対この4人いろいろあったよ、間違いない。2時間1本あるでしょ?>樫畑先生
この作品では、暁さんのお芝居がとても良かったので先に書きましたが、ダンスも秀麗でした。本当に綺麗。軸がぶれずに指先まで美しい。今回は肩と背中の表情があまりに美しくて、ソロダンスに見惚れてしまいましたわ。これならダンスのブランクがあっても、いきなりスターダンサーに抜擢されるのも納得できる。(遺伝でも無いらしいので、才能かしら。よほど父が好きだったのだろうな~とは思う。)ともかく暁さんのダンスが良かったので、いつか大劇場で朝夏さんのように一人で舞台を満たして踊るのだろうか?なんて期待してしまう。お顔は大変可愛らしく、いまは「可愛い!」ですが、どう「かっこいい」へ成長していくのか楽しみ、上手に年齢を重ねて欲しい期待の人です。
ダリア (美園 さくら)
「アルカディア」のトップダンサー。女王様の余蘊振る舞ってますけど、憎めなくて可愛いのでお姫様ですね。ダリアとルネは「椿姫のマルグリット」を意識した存在だったと思う。(このこだわりもよくわからん。別になくても良いのでは?と思うが、エミール編に何かあるのだろう)。ダリアも本名ではなくて、お花のダリアにあやかって名乗っているらしい。そういう歌詞が出てくる。美園さんはダリアのように華やかで、でも可愛らしい。もっときつい性格の女性でもよいような気がする。ミネットの前だけで優しいの。このダリアは結構みんなに優しくてみんなに好かれている。セックスシンボルとしてではなく、人間として好かれているように見えた。だから彼女がミネット(身元不明の少年)を拾って同居させていても、周りはあまり意外に思ってないように感じてしまった。「またお節介してる」みたいな感じ。漫画なら彼女の部屋には既に元捨て猫が先住して居そうだ(笑
借金を返すために働いているけど、オーナーには大事にされてるし、職場仲間にも愛されて、時に過保護にされてる。幸せそうに見えるけど、その優しい周りを捨てて出ていくことができないという「見えない呪縛」に気付いているような小さな苛立ちもある?
結局いろいろあり呪縛を断ち切ったのか、縄の結び目が変わったのか、希望通り女優になれたけど・・その呪縛はミネットが外せたのかな>ラストシーン。
いつも前向きで明るく度量の大きなダリアは、とても「イイ女」でした。
美園さん、初めてちゃんと見ました。可愛らしい娘役さんですね、お芝居も良かったし歌もダンスも。月組期待の娘役さんですね~
<「アルカディア」の人>
フェリクス (輝生 かなで)
堂々2番手。ダリアの幼馴染で、「アルカディア」のダンサー。(幼馴染だけどダリアと呼んでる・・ダリアはいつからダリアと名乗っているんだ?って思った) どう見ても最初から最後まで「ダリアが大好きです!!!」という言動をしている。あれだけあからさまなら、ダリア以外の全員が気づいていると思う。一言もそういうことは言わないんですよね。これも男のロマンでした。親しい人には「フィリ」と呼ばせる彼、ダリアを巡るライバルで嫌われていると思っているミネットは彼を「フェリクス」と呼ぶ。そのミネットが「フィリ」と呼ぶとき、そうなったとき、フィリの内心(実は見てわかる。彼は顔に出やすい)嬉しそうなの顔がちょっとツンデレで可愛かったわあ。
フィリとデジレの物語も3rdストーリーみたいで、綺麗に織り込まれていました。フィリ、かなり重要な二番手役。輝生さんも初めて意識したのですが、いいですね!
デジレ( 結愛 かれん)
誰が見ても「ダリアしか目に入ってないフィリ」をひたすら愛するデジレ嬢。ダリアと同じ店のダンサーだけど、バックダンサーでスターのダリアとは違う。いろいろコンプレックスもあるだろうに、ひたすらフィリを愛し追いかける。最後はダリアが変わったのもあるけど、フィリが振り向いてくれそうでよかったね。 この関係ならもっとダリアに意地悪するかと思ったけど、それはフィリに嫌われる行為だからしないのか、代わりにミネットに八つ当たりしてた?複雑な女心がリアルで凄かったです。
支配人ケヴィン( 貴澄 隼人) &影の支配人ドミニク( 晴音 アキ)
「アルカディア」のオーナー兼支配人のケヴィンは、ダリアにお金を貸し、返済として彼女に店で働かせている。ダリアをスターダンサーに育てたのも彼。いい人じゃないか。人情家だけど、経営が厳しかったりして、ちょっとジャン=ポールの契約にのせられたり・・でも根本では善人でダリアのことも可愛がっている様子が見えるので、契約のせいでダリアが不幸になるなら、借金かかえても断ってそうだ。ちょっと小心な善人の経営者という雰囲気がとても良い感じでした。
そしてお店をきりもりするのは陰の支配者ドミニク。衣装係と言ってたけど、どう見ても経営者な発言をし、管理職な活動をしている。ダンサー纏めたり、人間関係に気を配ってたり。この人も善人なので、このお店はいい雰囲気なんだろうな~って思う。
「アルカディア」」で働く人々の描写にリアリティがあり、物語に深みが出たなあと思いました。
<道案内>
探偵カミーユ (風間 柚乃)
ジャンポールに依頼されてルネを探し、「アルカディア」へ情報を取りに来た探偵さん。ベテランっぽいことを言ってましたが、見た目は若くて可愛い。ミレットに匹敵するほど可愛い。トレンチコートに眼鏡をかけて雰囲気を出して先輩風を吹かせてましたが、可愛い。ただ有能なのは確かなようで、説明役としてのお役目はきっちりと果たしてくれました。声が聞き取りやすく、台詞に感情を乗せるのが上手いのかしら。最初から最後まで快適にナビゲートしてくれました。役目的には3番手に見えました。
ジョス (礼華 はる)
元ウエイターの探偵見習。最初の場面からえらくカミーユに食いついていたと思ったら、探偵に弟子入りしていた。大変な長身だけど、性格はまだ子供?それゆえに言うことが時に厳しい。ま、ナビゲーターのカミーユが一人で話すのも何なので、途中はジョスとの会話で進んでいきました。その方が分かりやすくていいですね。この作品が大劇場なら、ベテランと若手のコンビになるんでしょうけど、若手バウだから、若い二人で頑張ってくれました。
<過去編、2ndストーリーの主要人物>
ジャン=ポール・ヴァロー (光月 るう)
ショービジネスの投資家。「アルカディア」に目を付け、拡大のための投資を提案し、実行する。結構なやりて。この作品ではかなりのキーマン。ルネの母と昔どういう関係にあったのか、客と高級娼婦と言ってましたが、そんな簡単な関係じゃない。現在の彼のロズモンドや名ダンサーだったエミール、彼ら4人が過ごした避暑地の夏のお話が<過去=エミール編>だと私は位置づけている(勝手に)。その時の結末が、今回のミレット編なんだよね?
ジャン=ポールとルネの恋と破局が知りたい、その後それぞれの結婚生活が知りたい。ものっ凄く思いました。ジャン=ポール、過去が重いわ。光月さんは頑張ってたけど、これはベテラン専科クラスの役。背中の哀愁と秘めた想いをもう少し欲しいところ。
ロズモンド( 白雪 さち花 )
ジャン=ポールの奥様、投資家として一緒に劇場へ来ている。この夫婦、冷めた温度のまま割り切った夫婦をやってる。夫も妻もやりたいようにやるけど、お互いに干渉しないで仲良くやってる。この冷たい関係の夫婦もあの夏の出来事からでしょうか?ロズモンドは良い家のお嬢さんのように見えるし、有名ダンサーとはいえダンサーに過ぎないエミールとの関係はどうだったのでしょう。そして何があってジャン=ポールと結婚したのか。知りたいですね~。この人も心に鬱屈を抱えて生きている。ミネットを拾い、というかミネットに転がり込まれ、何かに気付く。過去の夏の出来事から派生した二十年が全部暴露され、この後どうするのでしょう。・・・なんとなく、この夫婦はこのまま、少しだけ温度が上がった、でも割り切った夫婦関係を続けていくような気がします。
ロズモンドも陰のある複雑な心理の役ですよね~ベテランレベル。さすがです。
ルネ( 夏月 都)
ミレットの母ですが、昔からかなりの虐待母。登場するやいなや罵詈雑言。久しぶりに会う息子にかける言葉としてはひどすぎる。これはミネットでなくても心が壊れる。なぜ彼に対してそこまで冷たいのか?愛した男の子供じゃないから?でも愛した男が息子として愛しんでいた子なのに。子供の頃は愛していたのに。今も愛情が皆無には見えない。愛の裏返しの憎悪なのか。夫エミールの死が息子を助けるためとかなら、あの態度も分かる(山岸涼子さんの作品にもそういう理由で残酷なまでの虐待母が出てくる作品があった)でも違うのに。なぜここまでミネットに冷たくあたるのかわからない。同じくエミールの子ではないというコレットは大事にしている。この母の心理が不明。これもきっと過去編が必要なんだろうなあ。ルネに関する場面がかなり省略されていたので、クライマックスの彼女とミネット、ジョン=ポールの会話があまりに唐突に感じたのでした。
ルネは高級娼婦という設定でしたが、その割にはちょっと・・・夫亡き後娼婦に戻るにしても、もう少し。なんだか態度が場末の娼婦みたいで違和感。高級娼婦の矜持が感じられない。現在の姿もかなり「おばさん」している。同年輩のロズモンドが(資産家とはいえ)若さと美しさを保っているのに、ちょっとやつれすぎな気がするのだわ。言い方が悪いけど、こんなに落ちぶれ矜持をなくしているなら、手のひらを返して金蔓になる息子に縋りつくような気がするもの。それを突き放してるのは、なんだか違う。息子を突き放すなら、プライドを失ってないと思うんだけど。昔の愛人に手紙を書いたり、よくわからない。省略しすぎや~
少年ミネット (羽音 みか)
回想シーンにしか出てきませんが、少年ミネットと現在のミネットがシンクロして踊る場面があり、大変綺麗だった。羽音さんもダンスが凄いのかしら。幻想的で美しい場面に仕上がってていて、印象的でした。
こんな感じです。ほとんど全員に役が付いていて、役割があって、劇団員への愛を感じた。若い演出家にはジェンヌへの愛を感じることが多いので嬉しい。(あまりに愛に溢れると混乱するけど。)久しぶりにこういう演出のお芝居を観ました。懐かしくて新鮮。大劇場より2時間ある別箱向きのような気がしますが、樫畑先生のこれからに期待してます。暁さんも見るたびに進化しているのが嬉しいジェンヌさん。そう思うのは暁さんと彩風さん、水美さんくらいもしれない。大好き!!!じゃないけど、つい見たくなり応援したくなる方です。
バウなのでカーテンコールがありました。定番のあいさつの後、暁さんは自分では何を言ってるのかわからなくなってるようで、「何か感じてくださったら、帰りにダリアの花を買って帰って下さい」みたいなことを口走っていた。なんとなく言いたいことは分かる。せっかくならバウのロビーで売って下さいな(笑) まだ初日の幕が開いて2日目、この調子なら千秋楽まで進化し続けるでしょうね。もう一回見たかったな。でも次はまた「ひかりふる~ロベスピエール」を見に行くのだ、こちらも今回すっごく気に入ってます~!最近宝塚が良作多くて嬉しい♪