映画「永遠の0」
2013年12月25日〔水〕TOHOなんば
見に行ってよかった。感想を言葉に出来ないくらい、いい映画だった。
一言感想を言うなら、「貴方がたが思い描いていた未来になっていますか?」
いま第3世代の私たち(一応私も)が、考えなければいけないと思いました。
多くの若い人に見て欲しい映画。高校や大学で上演すればいい、と言うくらい。
これで終わってもいいけど、一応書いてみました。
ネタバレあります、まだ見ていない方はご注意ください。
映画を見てからお読みになる事をお勧めしますよ。
「永遠の0」 原作 百田尚樹 監督 山崎貴 音楽 佐藤直紀
どーでもいい話ですが、なんか雰囲気的に新谷かおる氏の漫画を思い出すわあ。
戦場ロマンシリーズとか、ドイツ空軍の話(題名忘れた)とか。
あの作家さんもこういうテーマが多くて(また料理法が上手くて)、私は凄く好きだ。
宮部久蔵(岡田准一)
飛行気乗り。上にも書いたけど、新谷漫画の主人公みたいだった(変な感想だけど)。
ほんとにかっこいい。いつも丁寧語で誰にでもきちんと話をする。自分の信念があって、
それが世情と合わなくても、軍隊や国の方針と合わなくても、それを貫く強さを持つ。
外から見るとあんなに柔和な感じの人なのに、さらっと見ていると軟弱と言われるのも
納得するほど優しいのに。なのに中に秘めたものは熱くて強い。
作中、彼について証言する人々のうち、宮部さんと深く関わった人々は、
その内側の強さを知り、そういう話をしている。
外からしか見ていない人と、深く関わり内側を見た人との証言が違いすぎる人物像。
あの時代に「熟練のエース」だったのだから、宮部氏は職業軍人だったのでしょうね。
自由に空を飛びたくて、飛行機も大好きで、だから海軍の戦闘機乗りになったのね。
そしたら戦争が始まって・・と、彼の大好きな飛行機が殺人兵器になり、彼の大好きな
空が殺戮の場になってしまった・・凄く哀しく辛そうだ。
他の人が「敵をやっつけたい!」ために飛ぶが、彼は愛する空と飛行機を汚したくなくて、
だからすぐに離脱してしまう。また優秀ゆえ、作戦の誤りなんかが良く見えるんだね。
だれか一人でも彼と同調する上官がいれば、あの最期はなかったかもしれない、と思った。
この時代の作品を見ていると、そういう思想の人はどんな場所でも苦しんでるし、抵抗
して悲惨な目にあってるみたいだしな。
日本はどこで歯車が狂ってしまったのだろう・・と、映画を見ていて思いました。
そしたら「無能な働き者が一番迷惑」という格言(?)を思い出した。
岡田准一さん、上手い、上手すぎる。上に書いた複雑な人、内面と外から見られる
人物像が全然違い、踏み込まないと分からない人物を、丹念に描いて魅せた。
すごいわ・・! 素晴らしい主役でした。
宮部松乃(井上真央)
宮部氏の妻。まあ古い時代の普通の女ですね。宮部さんが大事にしていた妻だけど
彼の対応からすると、この時代普通にあったお見合い結婚なのでしょう。だから
松乃さんのことも、余りよく知らない風・・でも妻と娘を大事に大事に思っている。
松乃のほうも、余り一緒にいなかった夫だけど、ちゃんと妻として家を支え、夫を
思って待っている。・・・こういう時代、こういう結婚形式も結構幸せになれたんでは?
と思ってしまった。(恋愛結婚だと、後でイヤになる事もあるもんね、最初から適度に
距離を置きつつ、「家庭」を共同構築していくというシステムもいいかも・・なんて)。
古きよき時代の夫婦愛がとてもよかったです。
が。宮部氏の上手さにくらべると、ちょいと・・・。と言いたい。
もうちょい上手い女優さんを使って欲しいなあ~とか思いました。
やや棒風味なのが引っかかる。
大石賢一郎(染谷将太)→(夏八木勲)
学徒出陣した海軍航空士官。学徒出陣の大学生は、そこそこ頭いいから特攻に選ばれて
しまったのね・・よく考えたら、壮大な人材損失じゃないか?この作戦考えた人は
「もう後はないっっっ」(戦後のことは考えない)と思っていたのだな・・・と分かる。
彼は宮部教官の内面に触れることが多く、また彼ら学徒出陣の士官候補生には、
この時代のインテリとして彼の想いを受け止める容量があったのだろうな。
大石君は宮部教官に心酔していましたね。(この学徒士官候補生全員そうだった)。
特に大石君はその後もいろいろと教官とかかわりを持ち、最後に命を救われ、託された。
大きな大きなものを宮部氏からしっかりと受け取ったのだな。
それは、この物語を貫くテーマ、そして宮部氏が「求めたこと」が最後に判明し、
映画冒頭に健太郎の台詞「あ~あ、また儲からない案件ばっかりじゃない」という
市井のちっぽけな弁護士事務所の様子に繋がる。(素晴らしい演出だ!)
・・宮部氏の死の真相が冒頭の場面に繋がったとき、本当にすっきりと腑に落ちた。
儲からなくても、人を助けるため、社会を良くするために、大石君は生きていたのだろう。
その姿を見た孫が弁護士を目指すほど、真摯に取り組み人々に感謝されてきたんだろうな。
おばあちゃんになった松乃さんは一度もでてこなかったが、どういう人生を生きたのか。
二人の心の底にずっとずっと宮部氏は生きていたのだと思う。
夏八木さん、凄いお芝居でした。最後に孫が真相にたどり着くことを恐れ、期待してた。
最初からずっとずっと。全部を知った後、冒頭の彼が号泣していた心境にたどり着く。
単に妻を亡くしただけではないことに、彼の背負う重いものに観客は気付く。
どこにでもいる、でもなんとも素晴らしいおじい様でした。
井崎(濱田岳)→(橋爪功)
2番機の部下。3機編成なんだよね(これも新谷漫画で学んだ)
宮部さんの部下としてずっと傍にいたから、だから彼の真実に触れることが出来た人。
そのために、宮部氏の言葉の意味を学んだからこそ、最後に生きて帰れたと思ってる。
現代の井崎さんは瀕死の病人で、健太郎たちが祖父の話を聞きに行くのも遠慮したいほど。
でも、「これを語るために今日まで寿命が延びたのが分かった」と本人が言う通り、
明瞭に記憶を辿り、近くから見た宮部氏の本質を語ってくれる。
この人と合わなければ、健太郎はインタビューを終わりにしていただろうし、
宮部さんのことも、大石さんのことも、理解できないまま終わったに違いない。
ターニングポイントとなる重要人物でした。
もうね、この映画、「現代に出てくる老人たち」が上手すぎて。見ごたえがあり
泣かされる。苦しい息の下で訥々と語る橋爪さんが素晴らしい。
井崎氏は、この後すぐに亡くなられたんだろうと思うけど、きっと清清しい気分で
宮部氏に報告しに行く旅立ちになっただろうと思った。
景浦(新井浩文)→(田中 民)サンズイに民
宮部をライバル視する負けん気の強いヤンチャもの。老後に出てくる雰囲気は、
大物の任侠の親分という雰囲気。若いころの勢いのまま戦後を乗り切ったんだね。
彼は宮部氏の本質を知っていたけど、最初は健太郎に語ってやらなかった。
健太郎に宮部の話を聞く価値はないと踏んだから。厳しい人物だ。
再び現れ、宮部のことを理解しつつある健太郎には語ってくれる。
宮部を語る最後の人物、宮部の最後の場面を知る人物。重い人生観を持ってる人。
でも昔の任侠の親分らしく、仁義に厚い。戦後、宮部夫人を助けてくれたのは、
間違いなくこの人。健太郎が応接まで見た「人の血を吸ったことのある日本刀」は、
あのときの・・?と観客だけは気付く。なかなか凝ってます。
書いてて気付いたけど、私、人物を語るに「老人」のほうばかり語ってますね。
なんとなく、老人チームの方が印象が強烈で・・語る言葉が重いからでしょうか。
(また俳優さんも凄いメンバーで、上手いんですよね・・>老人チーム)
武田(三浦貴大)→(山本 学)学は旧字
大石氏と同じく学徒出陣した航空兵、でも特攻として出撃するまえに戦争が終わり、
生還した。現在は財界の大物。この学徒出陣チームは、宮部氏が教官をしていたときの
生徒たち(部下)で、彼の想いを知った人々。だから、「宮部さんこそ、生き残るべき
だった」と語って聞かせるのだ。兵士を消耗品扱いせず、人として尊厳をもって接し、
「戦後」を考えていた宮部氏、その彼の思想が分かるインテリだからこそ、宮部氏の
言葉の意味を考え、戦後に成功したのでは・・?などと深読みする。
大企業のトップとして、分刻みの多忙な日々を過ごすが、旧い恩人の話を聞きにきた孫に、
時間を作って語るその姿に、彼がどれほど宮部氏を尊敬し、大事に思ってきたかが分かる。
この人のほかにも、宮部氏から影響を受けた人物は居ただろうと思う。
佐伯健太郎(三浦春馬)
現代の主人公。彼が血の繋がった祖父を知るために動くことで、話が進む。
いわばストーリーテラー。ただ単に調べるだけじゃなく、「宮部久蔵」という人物に
どんどんとのめり込んで行く過程で、健太郎自身の考え方がかなり変化していく。
普通の現代っ子っぽい(あまり深く考えないし、戦争なんて知らない関係ない)から
宮部が残したもの、彼に影響を受けた老人たちの話を聞き重ねることで、違う視点で
現代を見ることが出来るようになった・・と感じた。
このお話のもうひとつのテーマは、健太郎の心理を共有することで、観客も同じ
意識の変化を得ること、だと思った。実に丁寧な作りの映画だ。
三浦さんは、「おじいさんの面影があります」といろいろなところでいわれるが、
私もそう思った。なんとなく似てる???言われてその気になっただけかも(ごめん)
最初の頼りない現代っ子から、どんどん性根のある男に代わりつつあるところがいいね。
きっと来年の司法試験はクリアできるよ・・とか思いました。
大石のおじいちゃんの後を継いで、立派な貧乏弁護士になってくれそう。
佐伯慶子(吹石一恵)
健太郎の姉。フリーライターらしいけど、あまり活躍しない。
最初は、彼女の方が乗り気だったのに、気がつくと健太郎だけがのめりこんでる。
話的に、なぜ姉が必要だったのか・・?最初に健太郎を調査に引きずり出すため?
そうとしか思えない存在感の無さ。まあ戦死した祖父の戦中の話を辿るんだから、
男のこの方がいいのはイイ。姉の存在が、ちょっと中途半端な感じがした。
フリーライターなら、姉の方がちゃんと調べられるはずよね。視点もいいはずよね?
なのにその当たりが全然生きてないから、普通のOLか赤ちゃん抱えた主婦にして、
「お母さんのために弟に調べさせる(私は動けないから)」というほうがよかった気がした。
佐伯清子(風吹ジュン)
健太郎と慶子の母。宮部と松乃の一人娘。実父の記憶がなく、娘が調べると言い出し、
結果息子がのめり込んで、真実にたどり着く。そこで初めて知ったことは、この母には
大きな意義があったと思う。それは健太郎や観客とは違う意味で。
この人がもう少し若いか、男子でフリーライターとかだったら、この立場の人自身が
実父について調べたほうがストレートな気がする。でもそれじゃだめなんだね、
いま20代の若い世代に、調べさせ追体験させなきゃならないから。
そういえば健太郎父(佐伯氏)が一度も出てこなかったね。どうしてだろう?
宮部氏は、妻よりもこの清子の幸せを一番に考えていたみたいから、彼女が幸せな結婚を
して幸せに暮らしているといいなあ・・と思う。途中で出てくる佐伯家のリビングは
普通に普通の家庭らしいので(清子はキャリアウーマンに見えないし)、
きっと仕事が超忙しい夫が居るのだろう・・と思っておこう。
というわけで、原作小説も読んでみたいと思いました。
脚本も演出も凝ってるし、戦中の空中戦なかもよく出来ていて、見ごたえありました。
主演の岡田さんと老人チームの皆様の素晴らしさが余すことなく、脚本の意図を伝えた。
必見の映画です。
以上。あとはおまけ話と私の雑感。徒然話。
映画の「現代」は2004年で、「あと10年もすると、われわれの世代が死に絶え、
語るものがいなくなる」と言っていらしたが、現実はもはやその通りかも。
その台詞を言ってらした夏八木さんご本人も亡くなられ・・・。
私の祖父も戦争に行ったらしいが、本人からも祖母からも話を聞かぬまま
二人とも亡くなってしまった、母方の祖父は医者だったので軍医で従軍し、
赴任していた上海での、まだ楽しかった時代の話は少しだけ、聞いたことがある。
でも辛い苦しい話は聞いたことがない。軍医なら凄い話もいっぱいあるはず・・。
父方の祖父は一兵卒だったようで、全く戦争の話を聞いたことがないまま、
早くに亡くなった。どの地方で戦ったか、ということすら誰も聞いたことがない。
私の両親世代すら、戦後の大変さは多少の記憶にあるらしいが、
戦争そのものの記憶は全くないと。私は高度成長期の生まれで、娘は21世紀生まれ。
もう3世代戦争を知らない世代が続いているのね。
だから今、この社会が、あの世代の人々が望んだ未来に来ているか、聞いてみたい。
もはや戦後ではないと言ってから、どれくらい経過したのか。でもまだ悪い意味で
戦争を引きずっているようにも思う。何か動かないといけないのかな。
私も仕事で、人の役に立つような研究をしているけれど(そのつもりなのよ)、
未来の人々のために役に立ちたいなあ、と映画を見てしみじみ思った。
夢を見ながら散ってしまった人々や、何も語らずに逝ってしまった人々の思いを
受け止めなくてはならない、と思ったのでした。
閑話休題。
今日は水曜日だけど、12月25日で、映画館は満員状態。両側を若いカップルに
挟まれました。いや劇場中、若いカップルだらけ・・ひとりで出かけた私、寂しい中年女?
ううう私がもう仕事ないということは学生も授業がないってことか・・忘れてましたわ。
しかし若いカップルも上演前はいちゃいちゃしていたが、結婚真剣に見ていたし、
終演後はしんみりしていたので、何かを感じてくれたのだろうと思う(うわ教師的発想)
テーマが重すぎてデート向きかどうか分からんが、一応デートに向いてるとも言えよう。
若い皆さん、ぜひ見に行ってください。(うちの小学生にはまだ早いかな。いつか見せよう)