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宝塚月組「チェ・ゲバラ」ドラマシティ [観劇感想(宝塚)]

宝塚月組「チェ・ゲバラ」DC
2019年8月12日(月祝)12時 シアタードラマシティ 6列センター


期待以上の良作。原田先生のドラマシティはあたり率が高いわ。
一番驚いたのは、カストロ役の風間さん。轟さん相手に互角に存在感を出していて、その圧巻ぶりに驚いた。歌もまた素晴らしく上手くて、声もいい。新人公演学年とは思えない。
今作のカストロは、W主役というか1.5番手くらいの2番手がやるような役。それをまあ堂々と演じきっていて恐れ入りました。素晴らしいスターですね。プログラムに「将来の月組を担う逸材」と書いてありましたが、納得です。ほんとうは研15では・・?

轟さんに革命家は天職ではないかと思う。こういう硬派な役は誰よりも似合う。「二人だけの戦場」を思い出したな。ヒロインの天紫さんも強い硬派なヒロインがぴったりはまっていて、W主役のような風間さんの圧倒的な存在感も相まって、作品のクオリティが高かった。

そして装置と照明の美しさ。演出効果の見事さ。原田作品(というか松井るみ作品)の見どころの一つですよね。上下の空間を生かした舞台装置と、背景映像。そして何より照明の仕事が素晴らしかった。テーマは重いし、ゲバラの主張に完全に共感できるか?と言われると首をかしげるけど、でも絶賛です。

201908月ゲバラ.jpg


ミュージカル
『チェ・ゲバラ』
作・演出/原田 諒


上でだいたい書きましたが、装置照明が素晴らしい。原田先生は「主役に焦点を宛てて、主役のみを書く」と思っていましたが、今回はタイトルロールなのに、フィデル・カストロがかなり大きな比重を占めている。これはキューバ革命を描くならカストロが主役になるから、当然なのかもしれないけれど、二人の主役をきちんと描いていて驚いた(失礼)。男の友情と思想信条、それぞれ譲れないものを持つ強い男同士の戦いとすれ違いを描いた名作。ほんと正塚先生の往年の名作「二人だけの戦場」を思い出す。でも恋愛感情はほぼ付け足しのようでしたが・・・。エルネストとフィデル、二人の対立に、ほとんどヒロインが絡みませんからねえ。
二人の男、それぞれの仲間。仲間たちに絡む各人の人間模様。原田先生なのに、なんてきちんとたくさんの人間が描けているのか(大失礼)。「メサイア」からこっち、原田ファンになってしまったかもしれない。とっても好みだ。
今回は、演者の力量もプラスに働き、目が離せないというか、全く気が散らなかった。舞台に引き込まれた。特にあまり語らないフィデルの感情が気になって、(目に入ってくる)くぎ付けになってしまった。なんとも目を引き付ける芝居だ。こういう芝居をする役者は凄く好み。重厚で奥の深い作品に出演してほしい(もちろん主要な役で)。
轟さんも、革命家という積極的に打って出る、ちょっとエキセントリックな役が似合う。この人は、そういう役がいい。声はやはり年相応の衰えが感じられるけど、でも「凱旋門」の時よりは良かった。
その他も(後から書くけど)適材適所で、とても嵌っていて。月組初心者と一緒に観劇しましたが、「月組もいいねえ」と感動していました。


エルネスト・ゲバラ  轟 悠
かなり危険な思想の革命家。理想主義者で、現実はあまり見えていないような。だから政治家ではなく革命家と称しているのだなと思う。本作では、エルネストが革命家、フィデルが政治家。二人とも革命を遂行してから政治を行っているけど、適性が完璧に出ている。それを自覚して、エルネストは新しい革命を目指して、キューバを去ったんだろうなと思った。政治家としてみれば、他国に搾取されて国民が貧しいのは許せない!というのは分かるけど、真の独立のために世界中を敵に回して国民が貧しくなるのは仕方ない、というのは共感できなかった。どちらかというと、国民に豊かな生活を与えるために、政治信条を曲げて耐える、というフィデルの肩を持ちたくなる。エルネストのいうまま理想通りに突っ走ったら、国が破産するのでは?と心配になるのだわ。多分フィデルも、フィデルの同志たちもそう危惧したから、ゲバラ追放を口にしたのだと思う。だがフィデルは先頭に立って追放せず、逆に彼をかばい守り・・・エルネスト自らが己の使命を「革命」と知り、新たな革命のためキューバを出て行ったので、解決したような感じだった。こういうエキセントリックなまでの革命家は、轟さんに似合っていた。イケメンで真摯で、質素で勤勉な理想家に先導されたら、民衆はついていってしまいそうだもん。
真の独立のためにアメリカをはじめとする外国資本を追い出し、外国企業の資産を国有化し、世界を敵に回しても自立を謳う・・・国民は、今は貧しくても産業の国産化により国力を上げる!という話の展開に、なんかどこかで聞いた現在進行形の話のような気がした(笑)。まああの国は国民が搾取されて貧しくないので、該当しないけど。(かの大統領も相当な理想家で社会主義者だと思うけどね)。ついでに、エルネストは「祖国か、死か」とキューバの人民に代わって国連で演説してますが、キューバ人ではなくアルゼンチン人だし、思想に共鳴できないキューバ人からしたら、「外国人が国を危険にさらしている!」とより反発買うでしょ。エルネストの中では国境なさそうだけど、他人には理解されにくい人だと思う。他人を扇動しやすい人だけど、共感はしにくいって厄介だな。
というわけで、私はエルネスト・ゲバラの革命思想には共感しなかったけど、男の生き様としては、とても素晴らしいと感じた。原田先生の轟さん主演による偉人伝シリーズは、なかなか楽しい。


フィデル・カストロ 風間 柚乃
キューバ革命の主役。W主役級の存在感が必要とされる重要で、重厚な役。それをしっかりと演じきった。みんなが議論をしてわめきあいになる寸前、カストロが冷静に話し出すと、一気に場が静まる。それが何度も見られた。周りの人たちによる演技ではなく、自然に周囲を威圧する人物の大きさが感じられた。素晴らしいカリスマ的存在感で、「さすがカストロ」と思えた。代役とは思えない。
さすがアメリカ相手に社会主義革命をやってのけた政治家だ。エルネストは革命家だが、フィデルは政治家だった。というのが良くわかった。芝居が深い。フィデルにとって革命は自分の進む道の最初の一歩にすぎず、キューバという国の未来を見据えて行動している。そこに革命家エルネストとの大きな違いが感じられた。言葉に出さない台詞が多い。映像で見たらもっと彼の想いや思考を感じられると思う。舞台で見ていてこれだけ客席にいろいろ伝えられる役者なのだ。ほんとすごい力量だと思った。
プログラムの写真がまだ小さかった(1ページ3人)、本来なら1枚がふさわしい役の重み。まあ、新人公演学年でプログラム写真一枚はないから仕方ないかな・・・。プログラムを見たときだけ、本来の学年を思い出す。舞台を見ていたら、研15だよ。轟さんと親子でもおかしくない年齢なのに、対等感を出していたのが凄すぎました。


アレイダ・マルチ 天紫 珠李
キューバの学生で、革命運動に飛び込み、エルネストに共感して、一緒に戦い、恋をして、妻になった。けれど最後は子供をとり、彼とは別離。革命の理想に燃えているようで、やはり女性だけに現実が見えていたのだな、と思いました。
最初から気が強くて、意思が強くて、裕福な生まれで、それゆえに現実に敵が見えてしまい、戦いに身を投じたのだろうなと感じました。冒頭場面でのレイナたちアメリカ人に媚びる女たちへの侮蔑が凄いもの。でもその後、彼女を知った後の場面ではそれが無くなっているので、彼女も現実を知り成長したんだ、と思いました。現実が見えたからこそ、ゲバラと別れた。(見えていなければ、おなかに子供がいても、一緒に新たな革命に参加したのでは?)。彼女は革命(=世界平和)より、祖国キューバの平和を愛したのだと思う。
天紫さん、初めてしっかり役を見たけど、いいやん。ちょっと大きいけど美人だし、良かった。守ってもらうタイプの可愛いヒロインではなく、主人公と一緒に戦う協力者ヒロインですね。


ミゲル 蓮 つかさ
カストロの仲間。最初は外国人のゲバラに反発している。2度命を救われるまで反発している(結構疑り深い)。だが心酔してからは深い。すべてを捨てて、命を懸けて最後までゲバラについていった。
ゲバラへの反発や心酔を示す、キューバ人の一般的な感情を表す人物かなと思った。イケメンやなあ。

レイナ  晴音 アキ
ミゲルの妹。ハバナでアメリカ人相手のキャバレーのダンサー。大人っぽいのでミゲルの姉でもいいよね。最初のダンサー場面は大変セクシー。でも芸は売っても体は売らない、というタイプで、なかなかに問題を引き寄せるタイプの女性だ。ルイスをすっかり虜にして、彼の人生を変えた。ルイスの心情を知らずに別れたけれどひそかに愛し続け、最後にローザから彼の心を聞かされて、救われた。原田脚本、丁寧だ。こんな気配りができるなんて!
娘役2番手というか、ヒロインのアレイダより出番が多いような気がする。大変重要な役割でした。


ルイス・ベルグネス 礼華 はる
バティスタの部下。スケベなアメリカ人からかばったことでレイナと知り合い、心の奥底にあったバティスタへの反感を意識させられ、人生を狂わせた人。いえ人生を正したというべきか。大統領側の人間にも心があることを示した人物でした。こういう敵側の人間をきちんと描いていると深みがでますよね。ルイスとレイナは、主人公カップルよりずっと恋心が見えた気がする・・・。
軍服に帽子が必須なようで、あまりお顔が見えなかったのが残念。いい人材いますね~と思いました。

<カストロの敵>
フルヘンシオ・バティスタ大統領 光月 るう
キューバ大統領。国をアメリカへ売り渡す。これでも国民も潤っていたら問題なかったんですが、搾取はいけない。弾劾されても仕方ないし、味方がいないのも当然かと。革命は時間の問題だったのね。ということで、スイスの銀行にしっかりため込んでそうだよ、この人(笑)。だって亡命の決断が速い。国民はともかく、自分の支配下のはずの軍人までが寝返ったら御終いだものね。
自己中心的で嫌味な権力者が、とても素敵に表現されてました。バティスタ見てるとフィデルの気持ちがわかるってものよ。さすが組長!

マイヤー・ランスキー 朝霧 真
アメリカのマフィア。大統領とつるんでキューバ人民から搾取している人。もう見るからに悪役(笑)この人には全然「理」がないの。でもこの人がいなければ、ルイスとレイナが出会うきっかけがなかったので、ある意味キューピットだ(笑)
もう少しスマートで紳士っぽいマフィアのほうが好きだなあ。あまりに単純悪すぎる。ディズニーに出てくる悪役みたいに感じました。この作品なら、マフィアに理があったほうが良いと思うの。


<メキシコ時代のゲバラの友人>
エル・パトホ 千海 華蘭
グアテマラ人で、メキシコ時代のゲバラの親友。メキシコで観光客相手に写真を売ってる。客席に降りてきて、写真を~というまるでOSKのような芝居が入れてある(笑) 学年上なのに可愛い人ですね。今回はかなり良い役で、ゲバラの心の友。フィデルとは根っこの部分で共鳴できてないけれど、エル・パトホとはできている。そんな雰囲気。明るく単純で、カストロの良心のような存在に見えました。

アルベルト・バヨ 柊木 絢斗
メキシコ。スペイン市民戦争経験者の飲んだくれ親父。エル・パトホとゲバラの友人。冒頭場面で、フィデルたちキューバからの革命家にゲリラ戦を指導した人物。ああ世界史をしっかり勉強しておいてよかった!と思た(笑:スペイン市民戦争は逢坂剛のシリーズ作品で読んだんだけどさ~あれも原田先生で舞台化してほしいなあ。宝塚作品なら「Never Say Good-bye」かな。)


<ゲバラの仲間・カストロの味方>
ギレルモ・ガルシア 輝月 ゆうま
ゲバラの仲間。キューバ農村出身で、彼らが山中にいるとき、ゲバラが医師として彼の妻を助けたのがきっかけ。その後ゲバラに心酔。最後までついていく。キューバの普通の農民代表って感じの役割。サトウキビ農家みたいだけど、ゲバラの理想がどれだけ理解できていたのか・・は不明。彼らは、理想のためならサトウキビが輸出できなくても良いのか(ゲバラの理想)、やはり生きるためにサトウキビを売りたいのか(カストロの現実)、どちらだったのだろう。ギレルモは、思想はともかく、エルネスト・ゲバラに恩義を感じ、人物に惚れこんで革命家の道を選んだように見えた。


エリセオ・ガルシア きよら 羽龍
ギレルモの弟。一番最初のゲバラの仲間。まだ少年というか子供で、思想云々ではなく恩義と人物に惚れてエルネスト・ゲバラについていった。それには兄ギレルモの行動も大きく影響したと思う。しかし、登場からラストまで割と年数経ってるはずなのに全然大きくならなかったね(笑)お兄さんの赤ちゃんもずっと赤ちゃんのまま・・・いやあれは5人目とかだと思ってみてましたが。
娘役に大きな役がないからか、きよらさんが男の子役をやっていた。可愛くて目立つ役でした。


ハーバート・マシューズ 佳城 葵
NYTの記者。アメリカ人でも味方。一人だけ綺麗なスーツを着て、腕力なさそうなメガネ姿に、「異質の人」という印象を受ける。カストロたちは、キューバに戻ってからはずっと戦闘服姿だから。(メキシコ亡命中はフィデルはスーツ姿だったけどね)。アメリカにも彼らの味方がいると知らしめる存在で、フィデルは彼の真意と目的を見抜いて、インタビューを受ける。ここ、マシューズの正義と誠実さ、カストロの慧眼と器の大きさが表現されていて、すごく良い場面だった。佳城さんはこういう役が似合うなあ~と見てました。

<カストロの同志>
ラミロ・バルデス 春海 ゆう
カストロの仲間。ミゲルとゲバラを繋いであげる人物。仲間の中でも割と穏健派というか、よく仲裁している印象。アナーキーなヘアスタイルと髭がカッコよかった。

カミーロ・シエンフェゴス 蒼真 せれん
ニコ・ロペス 瑠皇 りあ
ラウル・カストロ 真弘 蓮
フアン・アルメイダ・ボスケ 遥稀 れお
ファウスティノ 槙 照斗
カストロの同志、一緒にメキシコに亡命した仲間。なんだけど、月組下級生、しっかりわかりませんでした。ごめんなさい。モブではなく個性的に描いてくれていたのに~もう一回見れば・・。

<アレイダの仲間。バハマの反政府組織>
エンリケ・オルトゥスキ 爽 悠季
ローラ 叶羽 時
最初はアレイダと一緒に登場。ずっとキューバにいて、地下活動をしているレジスタンス的存在。彼らの協力もあって、フィデル・カストロの革命は成功したのだろうと思う。地道に活動されてましたな。でも一番の功績は、ルイスとレイナの件ですね。

カーテンコールは、一応下級生から(多分)順番に出てくるのですが、そこは大劇場ではないので役の関係のカップルとかでの登場。いいですね~。驚いたのがここでもフィデル。最後の最後、幕が下りても風間さんは「フィデル・カストロ」のままでした。舞台からはけるときも、準主役のカストロとして、堂々と力強く歩いていく。その姿。カストロが小走りに袖に引っ込んではいけないもの。実に素晴らしい役者だ!と最後の最後まで感動しました。


見ごたえありました。宝塚的要素は少なく骨太な物語で、一般の演劇みたい。フィナーレもなくて、カーテンコールも普通の演劇的。でもそれがイイ。出演者と演出や装置、照明で十分タカラヅカだったし!
原田先生の偉人伝シリーズ、「次はチャンドラ・ボースが見たい」と同行者が言ってました。彼女がリアルに生きた時代の革命的英雄シリーズってことで。(今回いろいろ懐かしがってました)
私はキューバ危機の場面、「JFK」(一路さんトップの雪)を思い出しまして。もちろん生きてないので知りませんけど。ああそのうち、私が生きてリアルで見ていた出来事も、歌劇になるのかな~

関係ないけど、花組さんが何人かご観劇でした。組長だけわかった。





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